連載・特集

[Peaceあすへのバトン] シンガー・ソングライター 玉城ちはるさん 命の大切さ 歌に込めて

 被爆・戦後71年、記憶をいかに継承していくかが深刻な課題になっています。平和のバトンを被爆者や戦争体験者から受け継ごうと行動する若い世代に、未来への希望を聞きました。

 心の中には常に、8月6日の広島があります。国籍や宗教、文化が違っても、誰もが「平和」を祈って手を合わせる光景。そんな場所は世界で他にないかもしれません。全国を巡るライブで「一度でいいから8月6日の広島に来てください」と呼び掛けています。

 平和を願う気持ちの底には、19歳の時、父を自殺で亡くした経験があります。正義感が強くて温かかった「お父さん」。大切な人を失った悲しみが襲い、私が死を防げたのではないかと、自分を責めました。

 大学を中退後、東京で家を借りられず困っていた中国人留学生に出会ったのも転機でした。首相の靖国神社参拝を受け母国で反日教育を受けても、日本に興味を持って来てくれたのに、このままでは「近くて遠い国」になってしまう―。大学に通えなかった自分の経験もうずき、「マザー」として自宅に、日本と中国、韓国の学生を受け入れるきっかけになりました。

 若い人と一つ屋根の下で暮らすうち、新しい平和の形を築けたと思います。若者が戦争や原爆の記憶をそのまま引き継ぐのは難しい。経験していないからです。しかし、今日と同じような日が明日も来るよう、平和を継続させることはできます。考えの違う人と共生することは、その身近な第一歩です。

 歴史を知ることも大切です。渋谷駅の連絡通路にある故岡本太郎さんの原爆壁画「明日の神話」は、被爆した人間の悲しみと立ち上がる希望を描いています。広島の原爆資料館は、あの日の悲劇と障害が後々まで残る放射線の恐ろしさを教えてくれ、復興した街は人々を勇気づけます。どちらも留学生を連れて見学しました。大切な人を失う過ちを繰り返してはいけません。

 2009年、平和活動団体「イーチ・フィーリングス」をつくりました。広島や東京の学生、社会人ら約40人が参加しています。毎年8月に、広島で音楽イベントを開き、歌やアートで平和を表現。岩手県大槌町や釜石市では、東日本大震災の被災者を招き、コンサートをしました。ことし2月21日には、猫の殺処分を防ぐためチャリティーコンサートを福岡市で開催します。小さな命も尊いです。

 活動を通じて若者が「ちょっとよいことしたな」と感じてくれたら、次の行動につながります。私も昨年結婚し、母として守らなくてはならない命を宿しました。人がそれぞれの形で平和を感じ、さらに周りの人に笑顔を咲かせる愛の種になる―。そんな世界を築き、次の世代に手渡したいです。(文・山本祐司、写真・高橋洋史)

10代へのメッセージ

君にしかできない事がある 君が愛の種

 たまき・ちはる 広島市東区出身。安古市高を卒業後、安田女子大に入学(中退)。19歳で上京し、シンガー・ソングライターとしての活動を始める。24歳から10年間、留学生を自宅に住まわせて支援する「ホストマザー」を続け、計36人を受け入れた。2014年、「ユースリーダー賞」受賞。東京都在住。

(2016年1月11日朝刊掲載)
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