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連載・特集

『生きて』 バレリーナ 森下洋子さん(1948年~) <1> 世界のプリマ

平和を思い踊り続ける

 松山バレエ団(東京)団長で、プリマバレリーナの森下洋子さん(67)=東京都港区。広島市中区出身で、世界へと飛躍したバレエ人生はことし65年を迎えた。毎日の稽古は今も欠かさない。被爆2世として平和への思いも胸に、舞台に立ち続ける。

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 3歳でバレエを始め、気付けば65年になりました。「いつまで踊るの」と皆さんに聞かれますが、自分では考えていません。毎日毎日少しずつ、1年生のような気持ちで稽古をする。リハーサルをする。その延長に舞台があればいいと思っています。

 まずバレエに出合えたことに感謝しなくちゃいけません。体が丈夫になればと始めましたが、今の私にとって、バレエは呼吸と一緒。生きていることそのものです。バレエの神様に、バレエを通じて少しでも魂を磨いていくように、と導かれたのかもしれません。

 指導者に恵まれ、世界的なアーティストに教わる機会が多かったこともありますが、ここまで続けられたのは、お客さまやバレエ団のみんなの支えがあってこそだと思っています。

 31日には東京で65周年記念公演「新『白鳥の湖』」の全幕を踊る
 「白鳥の湖」は私のバレエ人生そのものなんです。全幕に初めて主演したのは15歳の時。それ以来、千回以上は踊ってきました。世界を見渡しても、私のように全幕を長く踊り続けている人はいないんじゃないでしょうか。でも、これまでたくさん学んだことを毎日かみ砕きながら、少しずつ前に進んでいる最中です。私は不器用ですから決して進むのは速くない。だから少しずつ。今も毎日5、6時間、日々新鮮な気持ちで稽古をしています。

 小学6年で広島を離れて50年以上たつが、被爆地の思いを忘れたことはない
 いつも「お帰りなさい」と声を掛けてくれて励ましてくださる広島の皆さんには、感謝の気持ちでいっぱいです。原爆に遭った祖母からは前向きに明るく生きる大切さを学びました。広島で生まれ、原爆を体験した家族を持つ人間として、平和を祈って踊ることが使命だと考えています。(この連載は東京支社・山本和明が担当します)

(2016年1月19日朝刊掲載)

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