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連載・特集

『生きて』 バレリーナ 森下洋子さん(1948年~) <6> 修業の日々

滝に打たれ心身鍛える

 小学6年で1人で親元を離れ、橘バレエ学校に寝泊まりする生活が始まった
 東京の武蔵野市立第一小に転校しました。バレエのため、1人で上京しているので、周りの友だちがとてもよくしてくれた。その後、第一中に進みました。このころに一緒だった友だちは今も必ず、公演を見に来て応援してくれています。私にとって、とても大きな励みになっています。

 12歳でプリマとしてデビュー。橘秋子先生から主役を務める心構えを学んだ
 橘先生は非常に厳しい。主役をやる人は、出ている人の全ての踊りを知っていなきゃ駄目って言われました。全部踊って覚えたものです。バレエだけではありません。料理や裁縫、お茶にお花。プロとして、人間として、バレエ以外もきちんとできなきゃいけない。そんな教育方針でした。

 滝修業もありましたね。駅から4キロくらい山道を歩き、滝に打たれる。それも冬。こーんなに大きなつららができていて。寒いのを通り越して痛かったけれど、爽やかな気持ちになりました。先生いわく、舞台に出たら1人だと。滝つぼに入るのと同じようなもの。自分の後ろにはたくさんの人がいて、引っ張っていかなきゃいけません。先生は「風邪をひくようじゃ駄目よ」と言っていました。

 雑誌のグラビアにも取り上げられるようになった。常に笑顔を絶やさず、撮影に臨んだ
 バレエを広めるために、雑誌などの仕事もたくさんしましたね。バレエの衣装で雪の中でポーズを取ったり、暗いうちから日の出を待って、海辺で撮影したりしたことも。「雪の中の妖精」みたいな感じで。寒いなんてもんじゃなかった。しょっちゅう撮影があり、いろいろな場所に行っていたので、学校は休みがちでした。

 このときも橘先生は言っていました。絶対に嫌な顔をしてはいけない、寒そうな顔をしてはいけない、つらそうな顔をしてはいけない、と。プロとしての心構えを学ぶ修業です。何があっても、お客さまに喜んでいただかなきゃいけませんから。

(2016年1月26日朝刊掲載)

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