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連載・特集

『生きて』 バレリーナ 森下洋子さん(1948年~) <11> 共演者たち

貴重な助言 大きな財産

  松山バレエ団で活躍する一方、海外で実績を積む。バレエ史に残る名コンビ、ルドルフ・ヌレエフとマーゴ・フォンテインと出会う
 ヌレエフとマーゴは20世紀最高のアーティスト。人としての温かさ、大きさがすごかった。ヌレエフと初めて踊ったのはワシントン。彼の相手役が体調を悪くし、急に声が掛かった。波長が合ったんでしょう。それから何度も踊ることになった。ヌレエフは「マーゴはこうやっていたよ」といろいろ教えてくれる。幕が閉まった後や、食事のときもです。

 アーティストだから、助言を受けても「私はこうやりたい」と聞き入れない人もいるんです。でも私は何でも教えてもらった。もし要らなければ後で捨てればいいのですから。結局、要らないものなんて何一つなかったんですけどね。

  1977年、英国のエリザベス女王戴冠25周年記念公演にヌレエフと出演した
 ロンドンでのデビューでしたが、私は全然知られていない。なぜヌレエフが、日本の小さな女の子を連れてきたのかって、思われたでしょうね。エリザベス女王は「遠い所から来てくれてありがとう」と言ってくださいました。

  マーゴは英国が生んだ世界的なバレリーナだ
 マーゴとは78年、ツアーを一緒に回りました。私と清水の踊りを気に入ってくれて。自宅に招かれ、一緒に食事をしたことも。特別にかわいがってくださった。「黒鳥は、アクロバティックに踊るものではないと思う」などと全部教わった。

 母が昔、バレリーナの本を買ってきてくれて。ガリーナ・ウラノワが「バレエの神様」、マーゴが「バレエの女王様」と教えてもらった。ずっと憧れの人でした。ウラノワは、魂そのものが踊る輝きがある。教わる機会があり、みんなにうらやましがられましたね。

 ヌレエフが言っていました。「マーゴはすごいよ。私のような若造の言うことを全部自分のポケットにしまい込んだ」と。マーゴは世界のバレエの女王様。でも謙虚で、勉強できることは何でも吸収しようとする。本当に素晴らしい女性でした。じかに学び、一緒に踊った経験は、その後のバレエ人生の大きな財産となったのです。

(2016年2月2日朝刊掲載)

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