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『記者手帳』 記憶継ぐ素地 育もう

■平和メディアセンター 増田咲子

 「なぜ僕たちが被爆体験を継承しないといけないのか、よく分からないんです」。広島の高校生にそう言われ、どう答えるべきか、戸惑った。

 本紙で連載する「ひろしま国」で、平和をテーマに中高生と取材を続けている。10代からの問い掛けに、学校の先生だったらどう答えるのだろう、と感じる時がある。

 元小学校教員で、東京都原爆被害者団体協議会の会長を務めた亡き横川嘉範さんの著書「原爆を子どもにどう語るか」を開くと、こうあった。「人間の喜びや悲しみに共感し、共有する素地ができれば、子どもは戦争や原爆の話を聞き、受け入れることができる」

 「ひろしま国」は、10代が被爆体験を聞く「記憶を受け継ぐ」を昨年秋からスタートさせた。原爆で親やきょうだいを失ったのも、10代のころだった人が多い。これまであまり体験を語ったことがない人たちが「ぜひ聞いてほしい」と何時間もかけて話してくれる。

 冒頭の高校生もインタビューに参加し、被爆者の話を初めて聞いた。頼もしい感想が返ってきた。「つらい経験を話してくれた人の思いを大切にしたい」。横川さんの言う「素地」を子どもは持っている。育む機会を、大人はもっと増やさなければと思った。

(2012年2月6日朝刊掲載)

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