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市立大平和研 専門2講師契約打ち切り 被爆者研究 広島の役割は… 

「存在意義揺らぐ」の声も

 広島市立大広島平和研究所(安佐南区)が昨年来、安全保障の研究者らを防衛省など国から教授陣に招く一方、被爆者に関わりの深い研究に取り組んできた講師2人に相次いで契約の打ち切りを通告した。被爆地の研究機関としての役割をどう果たしていくのか、懸念する声が上がっている。(道面雅量、金崎由美)

 2人は3年の任期付き講師で、再任しないと告げられた。昨年9月末で退職した講師(46)は、原爆被害に関する連合国軍総司令部(GHQ)による情報統制や世界の核被害者などについて研究。2008年には業績が評価され、日本平和学会の平和研究奨励賞を受賞している。原爆資料館(中区)の資料調査研究会の会員などを歴任、昨年夏に広島市内で開かれた同学会の研究大会では、受け入れ役を担った。

人事委が判断

 3月末で任期が切れる講師(35)は、被爆者への聞き取りを基に広島・長崎の復興史などを研究。昨夏、平和研など主催の被爆70年の国際シンポジウムでは平和研を代表してパネリストを務めた。

 2人を再任しない理由について、平和研は「大学の人事委員会が研究業績などを考えて判断した」としている。

 「核兵器廃絶を目指して、広島の被爆体験を世界の人々に伝え、理解と共感を得るために新たな知的枠組みを構築していく」。こうした役割を掲げて設立した平和研だけに、被爆者関連の研究者がいなくなる今春以降を不安視する声も聞かれる。設立時の市長だった平岡敬さん(88)は「被爆地だからこそできる研究に力を入れないと、存在意義が揺らぐ」と危惧する。

「いずれ補充」

 核兵器廃絶をめざすヒロシマの会の森滝春子共同代表(77)は「市民にとっても貴重な研究実績を持ち、被爆者からの信頼も厚い2人がそろって被爆地から去るとは大きなショック。ヒロシマの平和研究の方向性が市民から見えづらくなる」と指摘する。

 平和研の吉川(きっかわ)元(げん)所長は「平和と安全の創造に向け、政府を動かす設計図を作れる研究所を目指している。講師2人は、任期満了がたまたま重なっただけ。被爆者と関わる研究分野の重要性は認識しており、いずれ補充するつもりだ」と話している。

広島平和研究所
 1994年に開学した広島市立大に付属して98年に開設。元国連事務次長の明石康氏を初代所長に、核軍縮や国際政治の研究者ら計4人でスタートし、ここ10年は11~13人が在職。現在は研究領域として、「核」に関する諸問題▽「平和」に関する理論的および実証的研究▽東アジアの平和に関する研究―を掲げている。

(2016年2月26日朝刊掲載)

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