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連載・特集

70年目の憲法 第2部 私の主張 <6> 広島大大学院教授・新井誠氏 

人権守る「壁」 動向注視

 -憲法改正の議論が高まっています。あらためて憲法をどう理解すべきでしょうか。
 最高法規で、憲法に反する法律や国の行為は効力を持たない。さらに通常の法律より改正が難しい。その理由はちゃんとある。憲法は大きく、国会や内閣など国家の基本的な形である統治機構と人権について定めている。統治機構については、その安定性を保障する意味がある。国家の形がころころ変わっては国民が混乱するからだ。

 また、憲法は一人一人の人権を守るために国家権力を制限する。人には、気に入らぬ意見を排除したり封じてしまいたい欲がある。国家と個人の関係も一緒。根本にあるそんな「悪」の部分が分かるが故に、あえて最高のルールを設定し、理性的でいられるようにしている。

絶対不変でない

  -憲法改正が参院選の争点になろうとしています。
 改憲の争点化がおかしいとは思わないし、憲法は絶対不変ではない。だが、どこをどう変えるかについては、合理的な理由がいる。「お試し」で変えるべきものでもない。

 統治機構をめぐっては、大統領制や憲法裁判所の設置など制度の選択肢は多様だ。ただ、本当に改憲が必要なのか、見極めが大事だ。ここ20~30年でも裁判所や国会の制度は大きく変わったが、改憲せずとも法律で整備できてきた。

  -人権については。
 現憲法にはベースラインが書かれている。そのうえで憲法が非常に作りがいいのは、新しい人権といわれる環境権とプライバシー権も読み込める総論的な13条がある点だ。知る権利も21条で読み込める。

 注視すべきは改憲がこのベースラインを引き下げる、つまり、より人権抑制になるか否かだ。今、大災害や有事の際の首相権限強化などを定める「緊急事態条項」を加えようとの議論がある。それが過剰な人権の制限にならないか、中身をよく見なければいけない。

差別や排除防ぐ

  -主権者としてどう向き合うべきでしょうか。
 国家が一時の欲や感情、多数の力で物事を動かすと、少数者の権利が無視されたり差別や排除を生む恐れがある。それを防ぐ「理性の壁」の役割が憲法にはある。改正については、ぜひ人権をめぐる動向に注目してもらいたい。もし人権を制限される側になったらと、自分に置き換えて考えてほしい。(聞き手は久保友美恵)=第2部おわり

あらい・まこと
 1972年、群馬県生まれ。慶応義塾大大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(法学)。釧路公立大助教授、東北学院大准教授を経て、2010年に広島大大学院に着任。「地域に学ぶ憲法演習」(共編著)など。43歳。

憲法への関心の高まり
 第2次安倍内閣で憲法改正の発議要件である96条の改正や特定秘密保護法、集団的自衛権をめぐる議論が進む中、憲法の内容や意義を学ぶ動きが広がる。出版科学研究所によると、憲法の関連書籍の新刊は2008~12年で年間約70~80点だったが、13年156点、14年131点、15年も120点以上と急増。気軽に学ぶ「憲法カフェ」、弁護士や学者の講演会も目立つ。

(2016年2月28日朝刊掲載)

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