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広島宣言 和訳に疑問の声 「human suffering」は「非人間的な苦難」 市民団体「過剰な意訳」/外務省「適切」

 主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に先立ち、広島市で10、11日にあった外相会合が発表した「広島宣言」の和訳の一部に対し、市民団体などから「過剰な意訳だ」と疑問視する声が出ている。原爆投下が「非人間的な苦難」をもたらした、とする部分。外務省は「全体の文脈として適切な訳」とするが、市民団体は「原爆投下をどう捉えるか、日米の認識にずれが生じかねない」と懸念する。(田中美千子)

 市民団体などが疑問視するのは「広島、長崎の人々は原爆投下による極めて甚大な壊滅と非人間的な苦難という結末を経験した」との表現。日本政府が訴えてきた核兵器の「非人道性」の文言が核保有国に受け入れられず交渉の末、代わりに盛り込まれたとされる。

 「非人間的な苦難」の原文は「human suffering」。軍縮研究が盛んで通訳・翻訳者を養成する米ミドルベリー国際大学院モントレー校のラッセル秀子准教授は「直訳では『人々の苦しみ』」と受け止め、前後の文言を踏まえて「原文の意味を過剰に膨らませた意訳」とみる。

 非政府組織(NGO)ピースボート(東京)の川崎哲共同代表は「広島に人々の苦しみがあったと、米国が認めたのは前進」とした上で、和訳について「日本は『非人道性』に近い言葉を勝ち取ったと示したいのだろうが、深刻な誤訳」と指摘する。

 また、伊勢志摩サミットに合わせてオバマ米大統領が広島を訪れる見通しとなったのを受け、「原爆投下への認識が、より焦点化されてくる。米政府がどこまで認めたかを正確に認識する必要がある」と話す。

 外務省の川村泰久外務報道官は今月中旬の記者会見で「訳は全体の文脈に照らし、適切な言葉を当てて作る」と説明。「被爆の実相を伝え、核兵器のない世界に向けた力強いメッセージを発する宣言の趣旨を踏まえれば適切な訳だ」との見解を示した。

(2016年4月25日朝刊掲載)

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