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熊本訴訟は国が上告断念 原爆症認定 新基準対象外で初

 原爆症認定訴訟で、厚生労働省は25日、2013年以降の国の新基準でも認められなかった原告5人のうち3人を原爆症と認定した11日の福岡高裁判決を受け入れ、上告を断念した。新基準の適用後、対象外の病気であるバセドー病などを原爆症と認定した判決が確定するのは初めて。

 訴訟では長崎で被爆した熊本県の男女5人が原爆症認定を求め、福岡高裁はうち3人を認めた一審熊本地裁判決を支持した。認められたのはバセドー病、慢性腎不全、高血圧性脳出血後遺症。いずれも、新基準が「積極認定」の対象に定めるがん、白血病など七つの病気から外れている。新基準はがんなどの距離条件を「爆心地から3・5キロ以内」とするが、慢性腎不全の女性が被爆したのは爆心地から約3・8キロ地点だった。

 厚労省は上告断念の理由を「判決内容を精査し、受け入れられると判断した。原告が高齢であることも考慮した」と説明。ただ、「あくまで個別事例として認定する。基準見直しにはつながらない」とする。

 集団訴訟の全国弁護団連絡会の宮原哲朗事務局長は「司法判断と行政認定の隔たりが明確に示された」と指摘。同様の訴訟が各地で係争中であることを念頭に「国は全ての原告を訴訟から解放し、認定制度を抜本改正すべきだ」と訴えた。

 弁護団などによると、原爆症認定を巡る広島訴訟では、2人が広島高裁で、24人が広島地裁でそれぞれ係争中。白内障を患い、広島高裁で係争中の内藤淑子原告団長(71)=広島市安佐南区=は「判決確定は大きな励みになる」と強調。「高齢となった被爆者に残された時間は限られている。国は被爆した距離や病名にとらわれずに救済してほしい」と話した。(田中美千子、浜村満大)

(2016年4月26日朝刊掲載)

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