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社説・コラム

どう見る米大統領広島訪問 東京大大学院教授・西崎文子氏 被爆者と対話し共感を

  ―被爆地訪問の決定をどう受け止めましたか。
 任期中に実現するのは喜ばしいが、日米政府がどんな文脈の訪問にしようとしているかが重要だ。オバマ氏が訪問を決めた理由の一つは、イラン核合意やキューバ訪問に続き、対話重視の外交姿勢を強調したいからだろう。「核兵器のない世界」の構想へのリーダーシップを印象付けたい思いもありそうだ。ただ被爆者との対面に時間がどれほど割かれるか不透明だ。

 また日本政府は、安倍晋三首相が同行し、日米同盟の強固さを演出することを重視しているようだ。それは今回、被爆国が発するべきメッセージではない。  ―では、どんな訪問を望みますか。

 オバマ氏はぜひ、被爆者と対話してほしい。銃乱射事件の犠牲者を前に演説を重ねる姿や言葉遣いから、オバマ氏には人の痛みを感じる力がある、と思える。被爆者の話を聞き、思いを受け止め、原爆被害がどういうものか知ってほしい。

 日本政府も、オバマ氏に「広島ではあってはならないことが起きたのだ」と言えるくらいであってほしい。同盟強化は被爆地でなくてもアピールできる。

  ―オバマ氏は被爆者に原爆投下を謝るべきですか。
 国家として公式に謝るのが難しいのは分かる。ただ苦しみを抱えながらも、誰より先んじて核兵器廃絶を訴えてきた被爆者に「大変でしたね」と共感し、尊敬の念を示すことはできる。

  ―その言動は、核軍縮の前進につながりますか。
 残念ながら、それはまた別の話だ。オバマ氏は「核兵器のない世界」を打ち出したが、核軍縮の実績はさほど上げていない。ロシアとの関係悪化、議会との対立などから、核関連予算はむしろ膨らんだ。包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准も果たせていない。非核保有国のいら立ちを募らせ、溝を深めた。

 一方、核使用を是とする核抑止論を掲げているうちは、核兵器はなくせないのも明らかだ。廃絶に到達するのに必要なのは、その非人道性を見つめ、これは許せない、廃絶するしか道はないと、確信を持つことしかないと思う。オバマ氏がその確信を持つなら、具体的な核軍縮に直結せずとも前進だ。大統領を引退後に外交上で活躍をする可能性もある。今回の訪問が生きてくるかもしれない。

  ―市民社会は訪問を今後にどう生かせますか。
 広島、長崎の歴史的な意味を考える機会になる。原爆の非人道性に気付かせ、原点に立ち戻らせる場所。その重要性を再認識したい。そして、被爆者の思いを次世代が受け継ぎたい。(田中美千子)

にしざき・ふみこ
 1959年、仙台市生まれ。東京大卒。エール大大学院で博士号取得。日本被団協の活動に通訳として携わった経験がある。成蹊大教授などを経て2012年から現職。専門は米国政治外交史。

(2016年5月20日朝刊掲載)

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