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社説・コラム

『この人』 ヒロシマを次回作の舞台とするMWA賞作家 ナオミ・ヒラハラさん 

被爆・帰米の父 思いはせ

 広島からの「帰米」2世の庭師が、思いもかけぬ殺人事件に巻き込まれ、探偵役を担う。日系人の習慣が軽妙に描かれ、大戦中の強制収容などの苦難が事件の背後から浮かび上がる。

 世界中のミステリー愛好家に知られるMWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞。2007年に受賞し、邦訳された「スネークスキン三味線」をはじめ、異色の主人公の名から「マス・アライ」シリーズとも呼ばれる。昨年はフランス語版も出た。

 作者の父がモデルとされるが、「あんなに頑固ではなかったわ」と苦笑する。次回作執筆のため夫と住むロサンゼルス郊外から広島を訪れた。1945年8月6日の直後にあまたの負傷者が運ばれた似島に足を運んだ。きょうの平和記念式典にも初めて参列する。原爆死没者名簿には、父の名前もある。

 日本語名は平原勇さん。カリフォルニア州から両親に伴われて現呉市に移り、16歳の夏、学徒動員先の広島駅で被爆した。広島生まれの向井眉美さん(80)と結婚して米国に帰り、庭師をしながら1女1男を育て4年前に82歳で死去した。眉美さんは自身の父が原爆死した。

 原爆がもたらした「恐ろしさ、悲しさを聞いて育った」という。米国を代表するスタンフォード大を卒業し、日系紙の記者などを経て、04年にシリーズ1作目の出版を手にした。探偵役の主人公は被爆者でもある。

 7作目は、友人の被爆者の遺骨を広島へ携え、ある事件の真相を探り当てるという筋立てを練る。「マスは精神的に逃げていたヒロシマを考えることで人生をもっとよくしようと思うの」。刊行は再来年の予定だ。(特別編集委員・西本雅実)

(2016年8月6日朝刊掲載)

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