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社説・コラム

『記者縦横』 試験飛行 疑問拭えない

■岩国総局・野田華奈子

 たった1機で10分間―。もはや「茶番」としか言いようがない。岩国市の米海兵隊岩国基地で11日、国が実施した米空母艦載機の試験飛行である。

 在日米軍再編で岩国基地には2017年ごろまでに、米海軍厚木基地(神奈川県)の艦載機59機が移転する計画がある。厚木基地周辺の住民が長年苦しめられてきた騒音の根源。岩国基地周辺ではどのように聞こえるのか。市民の不安を踏まえて実機で確認したいという市などの要望に応え、国が米軍と調整して実現した。

 艦載機の大半は、岩国基地所属の従来型ホーネットよりエンジン出力の大きいFA18スーパーホーネットだ。試験飛行では同型機1機が10分間で離着陸を2回繰り返した。だが、艦載機はこれまでも岩国にたびたび複数で飛来している。今回は時間も短く、厚木での飛行内容とは異なった。視察した市議や住民から「意味があるのか」との指摘が相次いだ。

 市は周辺で試験飛行時の騒音を測定したが、当初希望していた従来型ホーネットの飛行がなかったため、同条件での測定値の比較はできなかった。比較対象のないデータが何に生かせるのか、甚だ疑問である。

 試験飛行を終え、中国四国防衛局の菅原隆拓局長は「市長の要望を実現できたことに意味があった」と述べた。米軍との調整は決して容易ではなかっただろう。だが、艦載機と隣り合う日常を想定しなければならない市民の不安は、残されたままだ。

(2016年8月19日朝刊掲載)

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