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社説・コラム

社説 駆け付け警護 「なし崩し」許されない

 安全保障関連法がついに運用段階に入る。陸上自衛隊は国連平和維持活動(PKO)で新しい任務となった駆け付け警護と宿営地の共同防衛に向けた訓練をあすにも始める見通しだ。

 アフリカの南スーダンを現場として想定する。新任務は派遣部隊が交代する11月にも付与される。だが現地では政権を二分する抗争が起き、内戦の再燃といってもいい。自衛隊の宿営地付近で戦闘が起きたほか先月は一般人ら300人近い死者が出たことをどう考えるのか。

 駆け付け警護とは、自衛隊が活動する区域外で、武装集団などに襲われた国連職員らを武器を使って助ける任務だ。銃撃戦など激しい抵抗を受けるリスクが高い。4年前から自衛隊が現地で担ってきたインフラ整備などの任務とは比べようもない。

 安保関連法を審議した昨年の国会でも、危険を高めるPKO協力法改正について突っ込んだ議論や説明があったとはいいがたい。3月の法施行後、現実は足元に迫っていた。

 訓練は日本国内の陸自施設で行い、宿営地を再現して警告射撃の手順などを確認するという。この手の習熟には半年かかるとの声も陸自にはあるようだが、今回は3カ月しか猶予がない。ここまで訓練がずれ込んだのは先の参院選で争点化を避ける狙いがあったからだろう。

 むろん南スーダンに限った話ではない。日本のPKOの在り方自体が問われていよう。

 どの国に派遣するにしても、現状分析がまず第一だ。南スーダンはどうか。抗争が激化した7月に中国のPKO部隊の2人が殺害され、英国やドイツは一部部隊を撤退させた。自衛隊だけが安全とは考えにくい。

 ここで思い出すのは安倍晋三首相の国会答弁だ。隊員のリスクが増える恐れを頑として認めようとしなかった。法案を通すための方便だったのだろうか。

 国連安全保障理事会は今月、南スーダンに4千人を増派する決議案を採択した。日本政府は派遣継続の大義名分とするつもりかもしれない。だがその前に日本独自の「参加5原則」を忘れてはならない。

 1992年、PKO協力法に盛り込まれた。この時も自民党が強引に押し切った形だった。ただ、当事国の同意や紛争当事者間の停戦合意などの歯止めをかけた。駆け付け警護は任務の性質からいって対極にある。

 しかし政府は「派遣・新任務ありき」で安保関連法の具体化に前のめりの感が否めない。抗争激化で隊員の安全が心配される中、稲田朋美防衛相は「PKO協力法上の武力紛争が新たに生じたということではない」と述べたが、本当だろうか。仮に事実を矮小(わいしょう)化しているなら由々しき事態である。

 国連派遣団がどれほど増えようとも、武力では事態の収拾は望めない。むしろ話し合いによる解決しか道はあるまい。そうなれば難民らへの医療支援など平和国家を掲げる日本ならではの貢献もあるはずだ。

 PKO新任務と軌を一にして政府は来月の臨時国会に日米が弾薬などの物資を融通し合う法案も出す構えだ。PKOもそうだが既成事実化によるなし崩しは許されない。南スーダンからの自衛隊撤退をためらうべきではないし、少なくとも新任務を付与すべきではない。

(2016年8月24日朝刊掲載)

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