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連載・特集

「この世界の片隅に」に寄せて <1> 原作者 こうの史代さん

被爆地への反響 原動力に

 戦中、戦後の呉、広島を舞台にしたアニメ映画「この世界の片隅に」が11月12日、全国公開される。呉市の市立美術館では漫画と映画の原画などを紹介する特別展(中国新聞社など主催)を11月3日まで開き、映画の魅力をより深める。関係者に映画に込めた平和への願いなどを聞いた。

被爆地への反響 原動力に

 「被災シーンを見せ場に悲愴(ひそう)感を訴えるのではなく、日常の出来事を描くという私のやり方で、読んだ人の心に刻みたかった」

 原作漫画と映画は、広島市の漁村に育った主人公すずが1944年、呉市の旧呉鎮守府で事務官を務める青年と結婚。知恵を絞って厳しい時代を生き抜く姿を描く。

 被爆者をテーマにした前作の漫画「夕凪の街 桜の国」は、広島市以外の読者からも多くの反響を得た。

 「私は広島以外の戦災について知ろうとしたことがなかったが、広島以外の読者は被爆地に興味を持ってくれた。この反響に勇気づけられ、今作の新たな原動力になった。私も他の地域の戦災を描きたいと思った」

 呉市は母親の古里でもある。家があった畝原町(旧上長ノ木町)はすずが暮らす舞台のモデルにした。漫画を描く前、呉市の伯母と祖母のいとこに当時の話を聞いた。

 「2人ともすでに亡くなった。戦争を知る世代が少なくなることを肌で感じる。新しい戦争を起こさないために、私たちは語り継いでいかなければいけない。映画を戦争体験者にも見てもらい、当時の体験を若者に語ってほしい」(小笠原芳)

こうの・ふみよ
 1968年広島市西区生まれ。95年漫画家デビュー。2004年、「夕凪の街 桜の国」で文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞を受賞。「この世界の片隅に」は「漫画アクション」(双葉社)で07~09年に連載された。京都府福知山市在住。

(2016年8月25日朝刊掲載)

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