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社説・コラム

天風録 「大阪万博と夢」

 戦車部隊も置かれる高原の基地。岡山県奈義町の陸上自衛隊日本原駐屯地を以前、取材したことがある。そこで教わったトリビアに「へえ」となった。どこか欧風の広報資料館の壁に「MUNCHEN」とドイツ語の文字が▲何を隠そう、1970年の大阪万博のミュンヘン市館を移したもの。来る西独での五輪のPRを兼ねた館だった。高度成長に沸く日本を挙げた一大イベントの記憶を、少しばかり伝える▲万博の名物は太陽の塔だけではなかった。とりどりの意匠の海外パビリオンは幾つも各地に引き取られる。有効活用に加え、未来都市さながらの「夢の舞台」のわくわく感を惜しむ気持ちが官も民も強かったのだろう▲2025年の万博を大阪に誘致する動きが、地元の官民で活発化する。東京五輪の次の一手にと国も乗り気だ。かつて浪速の五輪を目指した人工島の夢洲(ゆめしま)を活用し、夢よ再び。狙いは分かるが今や高揚感はどれほどか▲人類の健康や長寿が、今度のテーマらしい。一方で、同じ場所でカジノ誘致が見え隠れするのは気になる。まずは古き良き記憶として未来に語り継がれそうな構想を地元に望む。46年前、大阪で胸を躍らせた子どもの一人として。

(2016年10月24日朝刊掲載)

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