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社説・コラム

社説 首相の真珠湾訪問 「不戦の誓い」は本物か

 安倍晋三首相は米ハワイを訪れ、オバマ大統領とともに、太平洋戦争の発端となった真珠湾で犠牲者を追悼した。

 旧日本海軍の奇襲作戦によって、米側には多数の犠牲者が出た。「リメンバー・パールハーバー(真珠湾を忘れるな)」の言葉が示す通り、この地は広島・長崎への原爆投下と同様、「日米間の喉に刺さったとげ」として語られてきた。

 日米開戦から75年という節目の年に、かつて戦火を交えた両国の首脳がここで黙とうをささげたことは意義深い。安倍首相が「戦争の惨禍は、二度と、繰り返してはならない」と決意を示したことは重要な意味を持つに違いない。

 注目すべきは、安倍首相が発表した「和解の力」と題する演説の中身である。  安倍首相は、「米国民の寛容の心」が日米同盟の土台となったと強調した。両国が戦後、関係を深めた意義をアピールし、会場から拍手が湧いた。

 真珠湾攻撃については、開戦の最終通告が攻撃後となったため、米保守層の間で「だまし討ち」とする見方が根強い。安倍首相が今回、真摯(しんし)に死者を悼む姿勢を見せたことで、米側のわだかまりは、少しは解けたのかもしれない。

 一方で、開戦を巡る責任についてほとんど触れなかったことには疑問を感じる。なぜ日本が無謀な戦争へと突き進み、多大な損害をもたらしたか。それについて反省の意をにじませるべきではなかったか。昨年4月、米連邦議会の上下両院合同会議で日本の首相として初めて演説し、「深い悔悟」を表明した時と比べ、内容が薄まった印象は否めない。

 重要なのは、真珠湾訪問で太平洋戦争全体の総括が済んだわけではないことだ。

 今回の訪問で「戦後」に区切りをつけ、今後は「未来志向」を前面に出したいとの意向が政権内部から聞こえる。しかし苦い過去にふたをするような考えであれば困る。オバマ氏が広島を訪問した後も、米国の原爆投下という人道にもとる行為や、核兵器廃絶への責任から免れるわけではない。同様に、日本も侵略の歴史を踏まえて、今後の行動が厳しく問われていよう。

 とりわけ中国、韓国をはじめアジア諸国との和解は道半ばだ。日米で実現した絆を参考に、近隣国といかに関係を修復するか、重い責務を負っていることを忘れてはならない。

 同時に問われるのは、今後の日米同盟の在り方である。首相は演説で何度も「日米同盟」に言及した。不戦の誓いに触れながら、日米がともに「世界を覆う幾多の困難に、ともに立ち向かう」としている。

 だが足元の状況はどうだろう。安倍政権は、憲法解釈の変更で集団的自衛権の行使を容認する安保関連法を成立させ、自衛隊と米軍の連携は深まりつつある。それは「仮想敵」に対して日米で包囲の網をかけることにほかならない。

 このまま日米が軍事協力を進めていけば、紛争に巻き込まれるリスクが高まるのではないだろうか。

 安倍首相が宣言した「不戦の誓い」。それは日米同盟の強化ではなく、過去の負の歴史を不断に顧み、近隣国との和解を進めてこそ実現できるはずだ。

(2016年12月29日朝刊掲載)

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