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社説・コラム

天風録 「真珠湾の涙」

 真珠は涙の象徴ともいわれる。米ハワイのパールハーバーには、戦艦アリゾナとともに、あまたの涙が沈んでいるのだろう。その海にきのう、日米首脳はそろって、ピンクの花びらを散らした▲旧日本軍の奇襲から75年。潮風に吹かれながら安倍晋三首相が力を込めたのは「和解」の2文字だった。憎み合った敵であっても理解しようとする。寛容の心がいまこそ必要と。さて、演説はどう受け止められたのか▲あの日、「トラ・トラ・トラ(われ奇襲に成功せり)」と打電した淵田美津雄中佐は、真珠湾で多くの命を奪って軍功をたたえられた。しかし戦後、かつて憎んだ敵国に渡り、和解を呼び掛ける旅をする▲淵田氏の自叙伝には戦いのさなかも米兵遺族の涙を思い、「胸のうずくのを覚えていた」とある。そんな彼を和解へ導いたのは聖書だった。<彼らを赦(ゆる)し給(たま)へ、その為(な)す処(ところ)を知らざればなり>。自分が戦争で何をしたか分かっていなかったと認めた▲反省があってこその和解なのだろう。首相の演説では、無謀な戦いに突き進んだ過去への反省は十分だったか。沈船から少しずつ漏れ出るオイルは「アリゾナの涙」と呼ばれる。今もまだ、止まっていない。

(2016年12月29日朝刊掲載)

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