×

連載・特集

ヒロシマの記録2016 7~12月 核禁止条約 深まる対立

7月

 1日 被爆者健康手帳を持つ被爆者の平均年齢が3月末時点で80・86歳と     なり、2015年より0・73歳高くなったことが厚生労働省のまとめ     で判明
 6日 米国のローズ大統領副補佐官がホワイトハウスで中国新聞の単独インタ     ビューに応じる。オバマ大統領の広島訪問を「成功」と評価。ヒロシマ     演説の内容を「広島訪問から導き出される軍縮の追求という道徳的な使     命を語る」とする方針を大統領自身が決めたと明かす
10日 米ワシントン・ポスト紙(電子版)が、オバマ大統領が新たな核政策を     決定する見通しだと伝える。核の先制不使用宣言、核実験を禁止する国     連安全保障理事会決議の採択などが挙がる
11日 原爆ドーム東隣に完成した複合ビル「おりづるタワー」の展望スペース     がオープン▽原爆ドームの初の耐震補強工事がほぼ終了。れんが壁の内     側から3カ所を鋼材で固定した
14日 二つの広島県被団協など県内七つの被爆者団体が、日本被団協の国際署     名運動に連携して取り組むと発表
18日 英下院が潜水艦発射型戦略核ミサイル「トライデント」の更新計画を可     決
26日 広島市が、平和記念公園内の施設をスマートフォン向けゲーム「ポケモ     ンGO(ゴー)」の対戦場所などから削除するよう求め、開発を主導し     た米ナイアンティック社に要請。「大勢がたむろするようになり慰霊の     場にふさわしくない」
29日 被爆作家の原民喜が晩年に文芸誌で発表した「鎮魂歌」など4編の直筆     原稿が遺族から広島市に寄託される
30日 原水禁国民会議などの原水爆禁止世界大会が福島大会で開幕
31日 中国新聞が各都道府県と中国地方5県の地域の被爆者団体にしたアンケ     ート結果を掲載。オバマ大統領の広島訪問を、回答した9割の94団体     が「意味があった」と評価。原爆投下に対する謝罪は、必要と「思わな     い」が「思う」をやや上回る

8月

 2日 広島市が被爆建物として登録している民間施設の現状を初めて本格的に     調べた結果を中国新聞が報じる。4割に屋根の腐食などの不具合▽閣議     で報告された2016年版防衛白書で、北朝鮮の核・ミサイル開発の進     展を「国際社会の安全に対する重大かつ差し迫った脅威」と強調▽日本     原水協などの原水爆禁止世界大会の開幕となる国際会議が広島市で始ま     る
 4日 ケネディ駐日米大使が共同通信のインタビューに応じ、オバマ大統領の     広島訪問をきっかけに、より多くの人々が被爆地を訪れ「核なき世界」     への機運が拡大することに強い期待感を示す▽原爆資料館が、旧ソ連の     調査団が1945年秋ごろに広島と長崎の被爆後の廃虚を撮影したモノ     クロ映像を報道陣に公開。同館が旧ソ連撮影の原爆被害の映像を入手し     たのは初めて
 5日 戦前から広島の画壇で活躍していた洋画家の大木茂さんのアルバムか     ら、広島県産業奨励館のドーム部分の天井を捉えた貴重なカットが見つ     かり、中国新聞に掲載▽連合が平和ヒロシマ集会を広島市で開催▽核軍     縮に関する国連作業部会の最終会合が国連欧州本部で開幕
 6日 被爆71年の原爆の日。広島市が市原爆死没者慰霊式・平和祈念式(平     和記念式典)を営み、5万人が参列。松井一実市長は平和宣言で、オバ     マ大統領のヒロシマ演説から「核兵器なき世界を追求する勇気を」との     一文を引き、連帯して行動するよう世界へ訴える。海外代表は91カ国     と欧州連合(EU)で、過去最多だった2015年に次ぐ多さ▽安倍晋     三首相が平和記念式典出席後の記者会見で「わが国が核兵器を保有する     ことはあり得ず、保有を検討することもあり得ない」と明言▽日本原水     協などと、原水禁国民会議などの世界大会がそれぞれ広島日程を締めく     くり、核兵器廃絶に向けた行動を各国政府や国連に促すなどと確認▽広     島東洋カープとサンフレッチェ広島が原爆の日に初めてそろって本拠地     で試合を開催▽核兵器を禁止し、廃絶する条約の締結を目指す日本被団     協の国際署名運動を応援する組織が発足し、ホームページで署名呼び掛     けを始める▽スマートフォン向けゲーム「ポケモンGO(ゴー)」の開     発・運営を手掛ける米ナイアンティック社が広島市の平和記念公園から     キャラクターのポケモンが出現しないよう設定を変更したと、市が発表
 9日 長崎の原爆の日。長崎市の平和公園で「原爆犠牲者慰霊平和祈念式典」     が営まれ、田上富久市長が平和宣言で、核廃絶に向けて国際社会に「未     来を壊さぬため、持てる限りの英知結集を」と求める▽原爆胎内被爆者     全国連絡会が長崎市では初の集い
10日 日本被団協が結成60年
16日 核兵器廃絶の道筋を探る賢人会議の共同議長を務めた川口順子元外相と     オーストラリアのエバンズ元外相らアジア太平洋地域の元閣僚や軍高官     ら40人が連名で声明。オバマ米政権に核兵器の「先制不使用」政策の     採用を強く促し、「太平洋地域の米同盟国」に採用支持を求める
17日 北朝鮮の原子力研究院が、共同通信に対し「黒鉛減速炉(原子炉)から     取り出した使用済み核燃料を再処理した」と表明。寧辺(ニョンビョ     ン)の核施設で核兵器の原料となるプルトニウムを新たに生産したと明     かす
19日 核軍縮に関する国連作業部会が最終日、核兵器の法的禁止について17     年の交渉入りを「幅広い支持」を得て国連総会に勧告するとの報告書を     賛成多数で採択。日本は棄権
29日 東アジアの核軍縮の道筋を探る広島県主催の円卓会議「ひろしまラウン     ドテーブル」が議長声明で、北朝鮮の核兵器開発で安全保障への不安が     強まっていると指摘。少なくとも日本、米国、中国、韓国の4カ国の政     府が関与する地域対話を提案する

9月

 1日 広島市がオバマ米大統領から贈られた折り鶴4羽のうち1羽を長崎市に     貸し出す。長崎原爆資料館で3日から11月末まで展示
 9日 北朝鮮が5回目の核実験実施を発表。オバマ大統領は声明を発表して厳     しく非難し、「米国は決して北朝鮮を核保有国として認めない」。原爆     資料館は東館1階ロビーの地球平和監視時計に表示している「最後の核     実験からの日数」を「247」から「0」にリセット
14日 ミャンマーが包括的核実験禁止条約(CTBT)を批准したと判明。批     准国は166カ国に▽新基準で原爆症認定申請を却下されたとして、愛     知県の被爆者4人が国に処分取り消しなどを求めた訴訟の判決で、名古     屋地裁が2人を原爆症と認め、処分を取り消す。もう2人は請求棄却
16日 集団的自衛権の行使を容認する安全保障関連法が違憲だとして、広島県     の被爆者たち165人が関連法に基づく自衛隊の出動差し止めなどを求     める訴えを広島地裁に起こす
18日 原爆資料館の東館地下1階の特別展示室に雨水が流れ込み、開催してい     た「新着資料展」が中断
20日 国連総会の一般討論演説で、オバマ大統領が「『核兵器なき世界』を追     求しなければならない」と結束を呼び掛け、北朝鮮を非難
21日 米軍が、核搭載能力がないB1戦略爆撃機を韓国に派遣。北朝鮮への対     抗策として13日に続き2回目。「核の傘」を誇示する手法から脱却し     「核なき抑止力」を模索か▽採択20年となるCTBT関連外相会合が     あり早期発効を訴える▽首相官邸での原子力関係閣僚会議で、菅義偉官     房長官が日本原子力研究開発機構の高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井     県敦賀市)について「廃炉を含め抜本的見直しを行う」と表明
23日 国連安全保障理事会があらゆる国に爆発を伴う核実験の自制を求める決     議を採択
26日 長崎の被爆者5団体が、核兵器を禁止し、廃絶する条約の締結を求める     国際署名を集めるため、統一的な会を発足
30日 広島市議会本会議で平和記念公園を2018年4月1日から全面禁煙に     する改正条例が議員提案により成立

10月

 1日 米シカゴの日本文化会館で「ヒロシマ・ナガサキ原爆展」が始まる。広     島、長崎両市が主催
 2日 広島県がブラジルなど南米5カ国に、現地の被爆者の健康診断をする医     師団を派遣
 5日 マーシャル諸島が核兵器保有国の英国、インド、パキスタンに核軍縮義     務の履行を求めた訴訟で、国際司法裁判所(ICJ)が管轄権はなく実     質審理をしないと判断
12日 日本被団協が東京都内で結成60年の記念式典を開き、核兵器廃絶に向     けた切実な願いを込めたメッセージ「世界の人々へ」を発表▽被爆者に     支給される介護手当計約60万円を被爆者の高齢男性の口座に不正に振     り込ませたとして、徳島県警が詐欺の疑いで徳島県原爆被爆者の会会長     を逮捕
13日 菊池寛賞の受賞者が発表され、被爆者で歴史研究家の森重昭さんが名を     連ねる
14日 経済活動を通じた平和構築などを考える「国際平和のための世界経済人     会議」が広島市で2日間の日程で開幕
15日 広島市が原爆資料館の本館敷地で進めている発掘調査の現場を初めて一     般公開
20日 ベトナム戦争中に米軍によってまかれた枯れ葉剤の影響で結合双生児と     して生まれ、分離手術を受けたグエン・ドクさんが広島市の平和記念公     園を初めて訪れる
25日 国連総会第1委員会(軍縮)で討議されている、2017年の「核兵器     禁止条約」制定交渉開始を定めた決議案に対し、米国が「抑止力に影響     が及ぶ」と強い懸念を示し、採決での反対投票と交渉不参加を求める書     簡を北大西洋条約機構(NATO)諸国に配布したと判明
27日 国連総会第1委員会が、「核兵器禁止条約」の交渉開始決議案を123     カ国の賛成多数で採択。日本が反対し、被爆者が反発する▽国連総会第     1委員会が、日本主導の核兵器廃絶決議案を採択。世界の指導者たちに     被爆者との交流を通じた被爆の実態への認識を深める取り組みを促し、     オバマ米大統領の5月の広島訪問を歓迎。歴史認識問題で対立する中国     が15年に続き反対する▽原爆症の認定申請を却下されたのが不当とし     て、長崎で入市被爆した奈良県の男性と神戸市の女性が国に処分取り消     しなどを求めた訴訟の判決で、大阪地裁が原爆症と認め、処分を取り消     す▽広島で被爆した兵庫県伊丹市の男性の遺族が原爆症認定を求めた訴     訟で、最高裁第1小法廷が遺族の上告を退け、遺族逆転敗訴の二審判決     が確定
28日 岸田文雄外相が記者団に対し、「核兵器禁止条約」の交渉開始決議案に     反対票を投じた理由を「具体的、実践的な措置を積み重ね、核兵器のな     い世界を目指すわが国の立場に合致しない」と説明
31日 「核兵器禁止条約」の交渉開始決議案に反対した政府に対し、広島市の     松井一実市長が記者会見で「度胸がない。核抑止に頼る考え方を捨て、     禁止条約の議論に踏み出す勇気を持つべきだ」と苦言


11月

 7日 赤十字国際委員会(ICRC)のペーター・マウラー総裁が中国新聞の     インタビューに応じ、「核兵器禁止条約」の交渉開始決議案採択を歓迎
 8日 平和首長会議が、2015年7月から加盟都市を対象に徴収を始めた年     2千円の「メンバーシップ納付金」について、初年度に納付したのが1     2%にとどまったと明かす▽12月に長門市で安倍晋三首相と会談する     ロシアのプーチン大統領に対し、広島県被団協(坪井直理事長)が広島     を訪問するよう求める文書を送ったと表明▽米大統領選が投開票され、     共和党候補のドナルド・トランプ氏が勝利
 9日 カザフスタンのナザルバエフ大統領が広島市の平和記念公園を初めて訪     れ、原爆資料館を見学。演説では核実験による被害に触れて「『ヒバク     シャ』というのは同じだ」と述べ、核兵器廃絶へ連携を呼び掛け
11日 安倍首相と、来日したインドのモディ首相が首相官邸で会談し、日本か     らインドへの原発輸出を可能とする原子力協定の締結に最終合意。協定     に署名
13日 公益財団法人ヒロシマ・ピース・センターが、米ハワイ・プナホウ学園     の元日本語教師で、被爆2世のピーターソンひろみさん=ホノルル市=     に谷本清平和賞を贈る
16日 広島、長崎両市がトランプ次期米大統領に被爆地訪問を求める書簡を郵     送
18日 ドイツのガウク大統領が長崎市を訪れ、平和祈念像の前で献花
22日 放射線影響研究所の移転問題で、広島市と市医師会が所有する市総合健     康センターへの入居案が浮上していると判明
23日 オバマ米政権が核兵器の「先制不使用」宣言の見送りを決定していたと     判明。トランプ氏の大統領選勝利が要因。核抑止力の弱体化を懸念する     日本など同盟国の反対論も背景に

12月

 1日 5月に来館したオバマ米大統領へ所蔵品の図録などを贈った原爆資料館     に、本人から礼状が届く
 5日 安倍晋三首相がオバマ大統領と米ハワイの真珠湾を訪れる意向を表明
 6日 原爆ドームの世界遺産登録決定から20年。市が周辺の木々に青の電飾     を施し、試験点灯したところ、被爆者たちが「慰霊の場にふさわしくな     い」と批判。7日から一部を時間短縮
 9日 広島県議会の超党派の有志が、核兵器のない世界に向けた調査や研究を     進める国際平和貢献議員連盟を設立
12日 広島大と広島平和文化センターが包括的連携協定を締結。原爆被害の記     憶の継承と平和メッセージの発信へ、調査研究、教育分野で協力を進め     る▽原爆症認定制度の課題を話し合う日本被団協などと厚生労働相の定     期協議が1年11カ月ぶりに開かれる。被爆者側が抜本改正を迫るも平     行線▽長崎市で国連軍縮会議が2日間の日程で開幕。初日は「核兵器禁     止条約」を巡り、推進する非保有国と、反対の保有国の担当者が持論を     展開
21日 政府が日本原子力研究開発機構の高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県     敦賀市)の廃炉を正式決定
22日 政府が閣議決定した2017年度当初予算案で被爆者対策費は前年度当     初より37億円減の1325億円。高齢化による被爆者減少で医療費が     減ったことなどが要因▽トランプ次期米大統領が「米国は核戦力を大幅     に強化し、拡大しなければならない」とツイッターに投稿。ロシアのプ     ーチン大統領が自国の核戦力強化を訴えた同日の発言に対抗した可能     性。被爆者から怒りの声が上がる
23日 国連総会が、来年3月に「核兵器禁止条約」の制定交渉を始めると定め     た決議案を賛成多数で採択。日本は10月の第1委員会での採決に続き     反対
27日 安倍首相とオバマ大統領が真珠湾を訪問

(2016年12月31日朝刊掲載)

年別アーカイブ