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変わる岩国基地 艦載機移転問題 <上> 再編の足元 容認待たず 進む「準備」

 在日米海軍は、厚木基地(神奈川県)から岩国市の米海兵隊岩国基地へ空母艦載機部隊の移転を始める時期を「ことし後半」と発表した。日米両政府が2006年に合意した在日米軍再編計画のうち、岩国基地の最大の「変革」であり、軍事的拠点性はさらに高まる。岩国市や山口県が「容認していない」とする中で、地域の将来にとって重大な節目を迎える移転問題について、日米合意からの経緯や地元の受け入れの判断基準などを整理する。(野田華奈子)

 岩国基地から西に約3キロ。市中心部の丘陵地、愛宕山地区には野球場などの運動施設が姿を現し、米軍家族住宅262戸の建設が進む。艦載機移転のために必要な米軍施設として中国四国防衛局が整備しており、市民の暮らしの中に、もう一つの「米軍基地」が生まれようとしている。

市長選が分岐点

 市も山口県も移転を容認していないとするが、市は施設整備を「準備行為」として認めている。県と市がニュータウンを描いた愛宕山地域開発事業跡地(愛宕山地区)約75ヘクタールは12年、頓挫した事業の穴埋めとして米軍住宅化を提案した国に売却された。それは後戻りできない選択であり、住民の間に「移転は不可避」との印象を強めた。

 そもそも日米両政府は06年5月、艦載機移転を含む再編計画に合意した。厚木基地周辺住民が騒音の主因とする艦載機59機の移転を巡って岩国市民は、賛成派と反対派に分断された。事故の被害や騒音を軽減するために市民が念願した岩国基地滑走路の沖合移設の実現が、結果的に移転の呼び水になったことで国への不信感も渦巻いた。

 当時、移転に反対した井原勝介前市長に対し、国は市庁舎建設の補助金を凍結。08年2月の市長選では、井原氏と再編に協力姿勢を示す現市長の福田良彦氏の一騎打ちとなり、1782票差で福田氏が勝利した。福田市長の就任後まもなく、凍結された補助金は交付された。「あの選挙結果が事実上の移転容認だった」。市議会の桑原敏幸議長はそう振り返る。

「共存」盛り込む

 市民の「現実的選択」に支持された福田市政の誕生から9年。再編に協力する自治体を対象とした国の米軍再編交付金も市の貴重な財源として大型事業に充てられている。「基地対策課」は「基地政策課」に名称が変わった。

 国は再編の狙いを「沖縄などの地元負担を軽減しながら抑止力を維持するため」と県市に伝えてきた。在日米軍トップのジェリー・マルティネス司令官は昨秋、岩国基地について「地勢上、戦略的な位置にあり、どんな作戦運用にも対応できる。基地と市民の関係は他の基地の模範になるほど素晴らしい」とその重要性を強調した。

 福田市長は「基地との共存」という概念を14年12月に策定した市総合計画に盛り込んだ。基地を市の資源として捉え、英語教育や文化スポーツ交流などにも積極的に活用していくというものだ。市と国と米軍の協調路線が色濃くなる中で、艦載機移転が現実味を帯びつつある。

米空母艦載機移転計画
 在日米軍再編で米海軍厚木基地(神奈川県)の艦載機59機が米海兵隊岩国基地に移転する計画。日米両政府が2006年に合意。移転によって岩国基地の駐留機はほぼ倍増の120機以上、隊員や家族は1万人を超えるとみられる。在日米海軍によると17年後半から移転を開始。艦載機のうちE2C早期警戒機の後継となるE2D数機が、同年2月初旬から岩国基地で配備前訓練を実施する。移転準備のため、市中心部の愛宕山地区に米軍施設が整備されている。

(2017年1月11日朝刊掲載)

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