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連載・特集

緑地帯 平和を願う聖堂 青葉憲明 <4>

 世界平和記念聖堂は、聖堂と鐘塔から構成される。聖堂は間口20メートル、奥行き52メートル、高さ23メートルの大きな建物である。5階建ての建物が入るほどの規模でありながら、なぜか巨大さを感じさせない。

 聖堂内には、独自の優しい雰囲気が醸し出されている。信徒が祈る身廊は間口14メートル、奥行き32メートル、天井高18メートルの大空間だ。まず、正面にある再臨のキリスト像のモザイク壁画が目に留まる。両側のアーチ状の列柱と側廊、天井まで届く側壁、高窓、木製の天井へと目が移っていく。

 ここに身を置くと、不思議なほど心が静まり、敬虔(けいけん)な気持ちになる。設計者の村野藤吾さんも後に聖堂を訪れた時、ステンドグラスの赤い光が聖堂内に満ちていて祈りの空間に満足したと、喜びをラサール神父に手紙で伝えている。

 このたびの耐震工事では、雨漏りで白くなり傷ついた内壁も補修する。国の重要文化財として現在の仕様や姿を残しながら補修することが大きな課題である。

 村野さんが聖堂建設中にストックホルムのヘガリット教会を再訪した際、内部はやや暗く、「渋い紫がかった銀色に見えた」という。「漸(ようや)く気を取り直してパイプオルガンを、照明器具を、壁画を、洗礼盤を、祭壇を、ちょうど目のよく見えない人が心の『カン』で読みとるように眺めた。その夜、私はこの感激を日記に書いているうちに涙が頬を伝わって流れるのがどうしようもなかった」と、知人に手紙を送っている。今回の工事に、そのような感動を誘う聖堂空間の維持再現を願っている。(世界平和記念聖堂保存活用委員=広島市)

(2017年1月12日朝刊掲載)

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