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社説・コラム

天風録 「東芝とワープロ」

 一説によると、かつて日本企業では契約書の作成コストが欧米の3倍かかったという。アルファベット26文字に対し、漢字は数え切れないほど。数少ない和文タイピストに頼るしかなかった▲高度成長期はその前に連日の順番待ち。誤字は打ち直しで、大変な手間を取っていた。その光景を変えたのが1978年、東芝が最初に発表した日本語ワープロだろう。キーボードをたたけば誰でも簡単に。ものづくり企業の輝きを見せたといえる▲ワープロに次いでノートパソコンも世に送り出した東芝の青梅事業所が不動産会社に売却され、この春閉鎖する。不正会計などで会社自体が存亡の危機にあり、ほかにも虎の子の半導体事業まで分社化することに▲分かれ道は2006年の米原発メーカーの買収だったのだろう。その5年後に福島で手掛けた原発で事故が起き、業績が低迷する。原発事業の巨額損失が屋台骨を揺るがした。契約の見通しが甘かったのは、明らかだ▲眼光紙背に徹す―。格言は物事の裏を見抜く力を説く。福島で廃炉作業を担う東芝は燃料デブリ発見の重責を負うロボットも動かす。単なるビジネスではない。時代を動かした企業の意地と輝きを今こそ。

(2017年2月2日朝刊掲載)

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