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社説・コラム

ズームやまぐち 旧本郷庁舎 保存か解体か 戦時中の建物 岩国市が来月方針

 岩国市本郷町の旧本郷総合支所庁舎について、市は本年度中に保存か解体かの方針を決める。戦時中に建てられた木造建築。これまで活用策を話し合う市主催のワークショップ(WS)が開かれ、保存を求める住民グループは独自に勉強会や署名活動を重ねてきた。ただ、住民たちの意見は旧庁舎の「価値」を巡って割れている。方針決定には市の十分な説明が欠かせない。(加田智之)

 「歴史的な木造建築の建物。その価値に気付くべきだ」「耐震工事をしてまで保存する価値があるのか」

 昨年末にあった最後のWS。参加した町内外の12人は、保存・解体を巡って激しいやりとりを交わした。

WSで浮き彫り

 WSは町内外の21人が公募に応じ、昨年5月から3回にわたって保存、解体それぞれのケースを想定して活用策を話し合ってきた。意見集約をした最後のWSで浮き彫りになったのは、旧庁舎の「価値」を巡る保存派と解体派の認識の違いだ。

 解体派は、耐震工事などで費用をかけて保存しても「活用策がない」と主張。解体した場合の活用策の一例として、WSでは神楽舞台などを提案した。一方、保存派は木造建築として歴史的な価値があり、「町のシンボルとして観光客も呼び込める」との考えだ。

価値を調査せず

 市本郷支所によると旧庁舎は文化財に指定されておらず、市が独自に建築物としての価値を調査したことはない。保存する場合は耐震工事が必要で、費用は耐震診断だけで500万円程度かかるとみる。解体費用は1千万円程度と見込む。

 保存を唱える住民グループ「旧本郷総合支所庁舎を活(い)かす会」はこれまで、勉強会を開いて大工や歴史家を招き、旧庁舎の建築的な価値などを調査してきた。保存を求める町内外からの署名は、5日現在で1039人分が寄せられた。

 同会の依頼で旧庁舎を視察した山口近代建築研究会の原田正彦代表(62)は「旧庁舎は昭和初期の典型的な作りだが、希少な建物。文化財になり得る建築物であり、市は判断を先送りして詳細調査をするべきだ」と話す。

 WSで出た意見は3月開催予定の有識者会議に報告され、市は同会議の結論を踏まえて最終判断する方針だ。解体、保存という意見の違いはあるが、WSを通じて住民たちが「本郷の未来」を真剣に考えている点は同じであり、市は慎重に判断をする必要がある。

旧本郷総合支所庁舎
 洋風木造2階建てで、1942(昭和17)年に旧本郷村役場として建築。終戦後は一時期、簡易裁判所などとしても使用された。2006年の旧岩国市との合併後に本郷総合支所となり、14年春、近くに新築された本郷支所に行政機能が移転した。

(2017年2月7日朝刊掲載)

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