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社説・コラム

廃炉への道 苦難の連続 福島第1原発ルポ 高い放射線量 増える汚染水

 東日本大震災に伴う事故から間もなく6年になる東京電力福島第1原発は、廃炉に苦闘する巨大な工事現場と化していた。廃炉には40年かかるとされるが、水素爆発で壊れた原子炉建屋から核燃料を取り出す前段階であるがれきの撤去や、汚染水の処理が続く。日本記者クラブの視察団に加わり、9日に訪れた現場を報告する。(境信重)

 防じんマスクで口と鼻を覆い、バスを降りる。雪の中を1号機に約100メートルまで近づき息をのんだ。原子炉建屋はひしゃげた白い鉄骨がむき出しの状態。崩れ落ちたクレーンも見えた。東電社員は「ほぼ爆発した直後の姿のままだ」と説明した。

 建屋上部では、巨大なクレーンで専用の機器をつり下げてがれきの山を調査するとともに、小さながれきを吸い取っていた。放射線量が高いため遠隔操作だ。

 東電は1~3号機の使用済み燃料プールに残る燃料1573体の取り出しを急いでいる。1号機は392体を取り出すため今年前半、がれき撤去に乗り出す。計画では、2019年度から燃料取り出し装置を備えた建屋カバーを設け、20年度に取り出し始める。社員は「先行する3号機で得た知見を生かす」と力を込める。

 だが作業は難しい。3基の中で最も進む3号機でも、プール周辺のがれきを撤去した後も思うように放射線量が下がらず、燃料の取り出し開始予定は17年度から18年度に延期された。大半のエリアは全面マスクが要らないが、建屋周辺は放射線量が高い。2、3号機の間をバスで通ると、線量計の値は毎時335マイクロシーベルトに跳ね上がった。1時間の線量は、胸の検査1回分のエックス線の5倍強に相当する。

「タンクの森」に変貌

 車窓を眺めていると、汚染水や処理済み水を貯蔵する大型タンクが次々と現れた。「ここは野鳥の森だった」と社員。約900基が並ぶ「タンクの森」に変貌していた。

 汚染水は現在も増えている。1日に約150トンの地下水が1~4号機の建屋に流入するためだ。東電が対策の切り札と位置づけるのが、地下に設ける凍土遮水壁である。1~4号機の周囲約1・5キロに深さ約30メートルの穴を掘り、凍結管を約1500本埋め込んで地盤を凍らせ、建屋に地下水が流れ込むのを防ぐ。零下30度の液体が流れる銀色の配管が建屋を取り囲んでいた。

試しながら少しずつ

 ただ全面凍結には至っていない。建屋の周りの地下水位が急激に下がると、建屋内から汚染水が漏れ出る恐れがあるからだ。内田俊志所長は「段階的に試しながら、少しずつ慎重に進めている」と語った。

 難題はその先にある。汚染水を特殊な装置で処理しても、放射性物質トリチウムは取り除けない。構内のタンクには25メートルプール約2千杯分の約71万5千トンものトリチウム水が保管され、行き場がない。

 さらにメルトダウン(炉心溶融)で溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)の除去という最難関が待ち受ける。40年かかるとされる廃炉作業。費用の見積もりは8兆円と当初の4倍に膨れ上がっている。「山登りに例えると今は何合目か」。記者団の質問に内田所長は声を絞り出した。「ようやく山を登り始めたところだ」

(2017年2月11日朝刊掲載)

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