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核なき世界への鍵 マーシャルの訴え <3> 省みぬ超大国

被害を限定 足りぬ補償

 マーシャル諸島エニウェトク島の飛行場そばの集会所。1月中旬、過去の核実験の被害調査と支援のため代表団を派遣した日本原水協が会合を開き、「米国に被害補償を求め続けるべきだ」と呼び掛けた。集まった約100人の島民はその訴えに耳を傾けていた。

 カルミ・ジョブさん(61)もその一人。1991年に甲状腺の手術を受け、首都マジュロにある自国政府の「核被害補償裁判所」から核実験による放射線被曝(ひばく)が原因だと認定された。医療補償として政府基金から2万5千ドルが支給されるはずが、「分割払いにされた揚げ句、受け取れたのは一部だ」と憤る。

 マーシャル諸島政府は83年の自由連合協定により、医療補償や経済支援の名目で米政府から拠出された1億5千万ドルを基金に積み、運用してきた。しかし、裁判所の元職員で政府の核問題特別委員を務めるビル・グレアムさん(70)によると「基金はもう5万ドルしか残っていない」という。

 医療補償として2千人以上に計約7300万ドルを、土地の被害補償としても390万ドル分を支給。3カ月に1度の食糧支援などの財源にも使ってきた。ただ、裁判所の認定額に対する支給率は医療が76%、土地に至ってはわずか0・2%。食糧支援も人口増に追いつかず、住民の1人は「以前の1人分の配給を家族で分けている」…。基金の枯渇により、さまざまな支援が滞り、不満が渦巻く。

 こうした窮状に、米側が被害を過小評価し、拠出金を抑えたのがそもそもの原因では、との見方がマーシャル側にはくすぶる。米政府は、放射性降下物による健康影響と土壌汚染について、エニウェトクなど4環礁の被害のみ責任を認めたにすぎない。

 これに対し、マーシャル諸島政府は国内全域で放射線による影響があったとし、各種がんなどで被曝との関連を認定。参考にしたのは、米ネバダ州の実験場であった大気圏内核実験の従事者や風下住民を対象にした米国の被曝補償法(90年)だ。米国は同法に基づき、国内の被害者にはこれまでに21億ドルを払っている。だが、追加補償を求めるマーシャル諸島の請願(2000年)には応じず、島民の求めを拒む。

 核実験の被害を認められていないアイルック環礁から選出されたメイナード・アルフレッド上院議員(64)は、協定の協議材料となる肝心の被害状況が米国で機密扱いになっていたことを問題視する。90年代に相次いで公開された機密文書から、4環礁以外にも降下物が届いていたと確信。「米国は全ての情報を明らかにし、再び交渉のテーブルに着くべきだ」と訴える。

 マーシャル諸島は近く、政府機関として新たに「核委員会」を設ける方針だ。追加補償を促す国連人権理事会の特別報告(12年)にも応じない米国を相手に、自国の核問題に関する情報や権限を一元化し、交渉体制を強化する。住民が被曝したロンゲラップ環礁選出のケネス・ケディ国会議長(45)は「これまでの政権で長く動きのなかった問題を前に進めたい。米国に対し正義を求める」。そう、国民の思いを代弁した。

(2017年2月16日朝刊掲載)
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