×

ニュース

原発ゼロ支持半数 広島でエネ聴取会

 政府は29日、将来のエネルギー・環境政策について国民に聞く意見聴取会を広島市中区で開いた。政府が示した2030年時点の原発比率3案(0%、15%、20~25%)について12人が意見を述べた。

 新たなエネルギー戦略を決めるのを前に、国民の声を聞く狙い。67人が傍聴した。政府側は10年に26%だった原発比率について、①全廃する0%②依存度を下げる15%③新増設を前提とする20~25%―の3案を説明した。

 続いて事前に抽選で選ばれた12人が発言し、半数の6人が0%を支持した。福島第1原発事故を踏まえ、廃止を求める声が目立った。15%支持は2人、20~25%も2人。ほかに2人が3案以外を主張した。

 この日の発言者の1人は、28日の富山市の会場でも発言者として登壇していた。意見表明をする枠が限られる中、事務局は「たまたま2回選ばれた。特定の人を外すのも適当でない」と説明した。

 中国電力は当初、社員に応募を促し社の意見を述べる方針だったが、政府が電力会社社員の参加を禁止したため、方針を撤回した。

 この日は那覇市でも聴取会があり、発言者全員が脱原発の立場で意見を述べた。(東海右佐衛門直柄)

意見聴取会
 東京電力福島第1原発事故を受け、政府が新たなエネルギー戦略をまとめるのを前に開催。国民の声を直接聞くのが狙いで、8月4日までに全国11都市で開く。政府のエネルギー・環境会議が将来の原発比率に応じて示した3案を基に、抽選で選ばれた人が意見を述べる。

「ヒロシマからノーを」「経済落ち込みが心配」 参加者の声

 「被爆地の広島からノーと言いたい」―。29日に広島市中区であった意見聴取会では、12人の発言者の半数が2030年の原発割合で0%を支持した。一方で「経済の落ち込みが心配」などと原発の維持を主張する声も。傍聴者からは「発言したかった」との感想も聞かれた。

■0%

 「事故を二度と起こさないため、原発をゼロにすべきだ」。東広島市の広島大名誉教授安藤忠男さん(73)は強調した。広島市東区の歯科医師加藤正昭さん(38)も「放射性廃棄物の処理など後世へ課題を残すことになる」と訴えた。

 事務局によると、今回の意見表明の希望者117人のうち、約6割が0%を支持。「再生可能エネルギーは地域に潤いをもたらす」との訴えもあった。

■15%

 15%案は、原発を原則40年で廃炉とし、依存度を下げる。東広島市の男性は「使用済み核燃料の処理を電力会社に責任を持ってもらわないと困る。電力会社の体力を残すには0%は無理ではないか」として支持した。

 意見表明の希望者のうち、同案を支持したのは12人だった。

■20~25%

 20~25%案は、原発の新設を前提に緩やかに依存度を下げる。広島市中区、無職花岡哲さん(78)は「再生エネがどこまで安定するのか分からない中、原発は認めざるを得ない」と訴えた。「0%は理想論」との発言もあった。

 意見表明の希望者のうち、17人が同案を選んだ。

■運営の在り方

 傍聴した安佐北区の翻訳業伊藤秀輔さん(71)は「会場の参加者が発言できないのは残念」と感想を述べた。南区、主婦中原好枝さん(51)は「電力需給や新エネの可能量などのデータをもっと示して、国は議論を深めてほしい」と注文した。

 広島修道大の森嶋彰名誉教授(69)=横浜市=はインターネットで傍聴。「国民の意見を聞く場を設けたことには意義がある」とした上で、「会場での質疑がなく仕組みに疑問がある。個別の原発の方針に触れない選択肢では、国民は選びにくい」と指摘した。

<政府が示した2030年の原発比率の3案>
原発比率          再生可能エネルギー比率       家庭の1カ月の電気代
     0%        35%                     14000~21000円
    15%        30%                     14000~18000円
 20~25%       25~30%                  12000~18000円
現状(10年)26%     10%                    10000円

※電気代は2人以上の世帯の平均

政府エネ聴取会 発言要旨

 政府が29日に広島市中区で開いた将来のエネルギー・環境政策について国民に聞く意見聴取会で、登壇した12人の発言要旨は次の通り。

 【0%案支持】

 広島大名誉教授 安藤忠男さん(73)=東広島市

 原発は、事故が起きれば大勢の人が住み慣れた町に一生戻れなくなる。こんなリスクは原発以外では考えられない。福島第1原発事故では国や東京電力の組織の構造的な欠陥が指摘されており、どんな技術を使っても安全性は担保できないと感じる。年金や地球温暖化のように、原発問題を将来の世代につけ回すべきではない。

 市民団体代表 落合真弓さん(60)=福山市

 原子力のリスクは予測不能、計測不能、収拾不能で、未来世代に禍根を残す。再生可能エネルギーの割合を早期に広げるべきだ。地域が主役の新しい時代を開く切り札にもなる。政府が今後、どのシナリオを選択するにしても、国民に分かりやすく説明する責任がある。説明がないから国民は不信を抱き、声を上げている。

 歯科医師 加藤正昭さん(38)=広島市東区

 20~25%ではあまりに努力不足。15%も達成後の方針が不明確で無責任な状態になりそうだ。放射性廃棄物の処理は、ただ厳重保管して半減期を待つだけでは後世に課題を残す。今後は無害化する技術開発を目指してほしい。スピード感のある変化を期待するなら、電力事業に多くの企業が参加できる状況が望ましい。

 広島市議 関藤雄姿さん(38)=西区

 5月に国内の原発がすべて停止し、7月に大飯原発が再稼働するまで国民生活に影響はなかった。原発を廃止して困るのは官僚か、電力会社か。国益ではなく国民益を基準に考えるべきだ。節電などの努力により、原発依存から脱却できる可能性が少しでもあるならゼロを希望する。脱原発を実現し、世界に模範を示すべきだ。

 会社員 田野淳路さん(45)=広島市西区

 再生エネルギーの中で、太陽光や風力以外にも、地熱やダムを造らなくて済む小規模水力にも可能性がある。国は原子力ばかりに投資してきたので、再生エネルギーに技術革新が起こっていないだけだ。原発は一度造ったらそのまま動かし続けるしかない。太陽光発電などであれば、家電と同じように技術革新を反映できる。

 パート従業員 福原和子さん(42)=広島市中区

 広島から被曝(ひばく)ノーと言いたい。地震大国に原発は向いていない。原発がある地域では、クリーンエネルギーの研究や廃炉の作業で仕事は生まれる。つなぎとして「燃える氷」と言われるメタンハイドレートなどの新エネルギーや、蓄電手法の研究も進めるべきだ。経済至上でなく、国や地球の大きさに合った生活が大事だ。

 【15%案支持】

 小学校教諭 田中常和さん(56)=愛知県安城市

 最小限の原発再稼働は容認するが、核燃料サイクルの継続は断固反対だ。プルトニウムを得る手段であり、日本の核武装につながる。福島の原発事故の原因追究が不十分な状況で、今後のエネルギー政策を決めてはいけない。本当に国民的な議論を求めるなら、電力会社も含め参加を縛らず、自由な議論をするべきだ。

 男性=東広島市

 全国に原子炉と使用済み核燃料がある。電力会社が責任を持って処理するべきだ。2030年に全原発を廃炉とするのは、技術を残すためには無理だ。これまで政府は、原発は安全としか言ってこなかった。事故は想定外で済まされず、使う以上は覚悟がいる。産業には電気を使えば結構だが、できる分野は節電を進めればいい。

 【20~25%案支持】

 無職 男性(66)=岩国市

 今回の参加人数をみても、エネルギー問題への関心は高いとは言えないのではないか。原発が怖いなら文化的な生活をやめるしかないが、人間には欲があり、電気は使いたい時に使っている。0%は理想論にすぎない。交通事故が怖いから車をなくすという論理にはならない。だから、最も費用がかからない20~25%がよい。

 無職 花岡哲さん(78)=広島市中区

 私は原爆投下時、広島市郊外で黒い雨を浴びた。この問題に関心がある。沖縄を除く全国に原発があり、全面停止となれば経済の落ち込みが心配だ。化石燃料が値上がりすれば国民が負担する。原発は必要悪として認めざるを得ない。再生エネルギーが増えれば原発を減らせばいい。再稼働には、津波対策や活断層の調査が必要だ。

 【その他】

 僧侶 城山大賢さん(66)=広島県安芸太田町

 原発は即刻廃止するべきだ。電力が本当に足りていないのかどうか疑わしい。もし巨大地震が起きれば、原発が稼働していなくても施設内に保管されている使用済みの核燃料がどうなるか分からない。核燃料があれば、核兵器も造れる。どこかで核武装できる選択肢を残しておきたいとの気持ちが政治家にあるのではないか。

 自営業 豊原英樹さん(46)=広島県神石高原町

 電気の話は分かりにくい。小学6年の娘と一緒に考えている。電気は足りるのか足りないのか、納得できる答えが出ていない。司法の場で示してほしい。隠し事やうそが多すぎて、いろいろなことが信用できなくなっている。今この時代に、正しい数字が出ないわけがないと思う。出せない理由があるのか。真実が知りたい。

<注>政府が示した将来の原発比率別に発言順。発言者の一部は、本人の希望などで匿名にした

(2012年7月30日朝刊掲載)

年別アーカイブ