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連載・特集

通信使の置き土産 <2> 漢詩とっくり

「命を保つ」名酒たたえる

 生玉堂は立派なおいしい酒を勧めてくれた。(中略)薬酒の効き目は命を保つという保命酒の名に恥じない-。

 朝鮮通信使が、福山市鞆町で醸された保命酒を飲んで詠んだ漢詩の訳である。生玉堂とは江戸時代に醸造を独占した中村家の屋号。明治期に保命酒造りを始めた同町の入江豊三郎本店に、この漢詩を図案にしたとっくりが残る。

 同店の入江孝子さん(68)は「福山藩から幕府や公家への献上品になったのだろう。通信使のたたえた酒は格段に喜ばれたのではないか」と推測する。中村家の1838年の注文書には「福山藩江戸屋敷に朝鮮の漢詩入りとっくり」という内容の文言がある。

 現在の同市引野町で焼かれた岩谷焼で、鞆で絵付けした。「(保命酒は)愁いや苦しみを抜け出させてくれる」などとする別の漢詩をしたためたとっくりもある。

 保命酒に限らず、通信使には行く先々で名酒が振る舞われた。三原についても「うまい酒が産出される」などと記録に残している。(衣川圭)

(2017年3月3日朝刊掲載)

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