×

連載・特集

緑地帯 まち物語の復興力 福本英伸 <1>

 70年余り前、原爆で一瞬に廃虚となった広島市。1945年末までに推計14万人が帰らぬ人となった。数々の被爆体験を聞く中で、ある語り部が口にした「人だけではない。街中の文化が消えた」との一言が胸に突き刺さった。

 東日本大震災の直後、繰り返された津波の映像に、その言葉がよみがえってきた。巨大な津波は一瞬にして地域の公民館や学校を押し流し、地域の物語を描いた文集などを押し流す。そこにしかない民話や昔話が消えたのだ。

 東北へさまざまな支援の手が伸びる中、私は「物語を救う」と心に誓い、「東北まち物語紙芝居化100本プロジェクト」をスタートさせた。緻密な計画があったわけではない。3年間で100本作るという大風呂敷は被害の大きさからだ。何十という町が消える中、数本では話にならないと思った。また100という言葉の響きから、とことん付き合うとの覚悟が伝わればと考えた。

 しかし、それがとんでもない数字であることを身をもって知ることとなる。なにせ1年目の目標50本を達成するには、週1本のペースで作る必要がある。紙芝居にはシナリオが要るし、絵を描くには資料収集、時代考証も必要だ。

 どうにか目標を達成できたのは、物語を大切にする被災地の人々の想(おも)いに支えられたから。福島で紙芝居のグループができるきっかけにもなった。今もそのグループは、避難先を巡って交流会の場を自らつくり出している。(ふくもと・ひでのぶ まち物語制作委員会事務局長=広島市)

(2017年3月4日朝刊掲載)

年別アーカイブ