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連載・特集

緑地帯 まち物語の復興力 福本英伸 <4>

 私たちが手掛けた紙芝居「無念」は、助けられる命がそこにあると知りながら、原発事故の影響で持ち場を去らざるを得なかった福島県浪江町の消防団員の苦悩を描いた。昨年春にアニメーション化したところ、これまでに300以上もの自主上映会が開かれるほど反響が広がった。

 反響は国内にとどまらず、フランスや米国からも上映したいとの話が持ち上がった。とりわけフランスの人は熱心で、フランス語や英語に翻訳もしてくれるという。

 その熱の入れように感動し、ならば日本からも行きましょう、となった。インターネットのクラウドファンディングで寄付を募ったところ、意外にも資金のめどが立ち、これなら欧州を巡る上映会ができるのではと思う中、タイミングよく、ドイツからも上映希望の連絡が届いた。

 ところが、それは程なく立ち消えとなる。どうも、ドイツの人とのやりとりの中で、アニメ制作に公的資金が出ていることを伝えたのがいけなかったようだ。

 反原発運動に詳しい人によると、世界には福島の原発事故を、かえって原発推進のロビー活動に利用する動きもある。原発事故は大変な事態だが、それでも福島の人々は大丈夫、復興している、と安全をアピールするような動きがあり、ドイツの人たちは、アニメ「無念」をその流れの中にあると捉えたようだという。

 被災者に寄り添おうとしてきた私たちにとって全く心外なことだが、原発問題の複雑さをあらためて思い知った。(まち物語制作委員会事務局長=広島市)

(2017年3月9日朝刊掲載)

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