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連載・特集

緑地帯 まち物語の復興力 福本英伸 <7>

 福島のラジオキャスターの勧めもあり、原発作業員の物語を作ろうと、昨年秋、東京電力福島第1原発に向かった。

 当然、ためらいはあった。健康上のためらいではない。どんな物語にすべきかでためらったのだ。東電に寄るのはいけんと思うし、背を向けるだけの物語も違う。答えの出ないまま、仲間の発した「ありのままを伝えればえかろう」との一言に背中を押された。

 その日、視察に参加したのは福島、宮城のテレビやラジオのキャスター4人と私。迎えてくれたのは、東電の副社長で現場を代表する責任者だ。手厚い対応にたじろいだが、現場の構えはいたってシンプル。テレビでよく見た大げさな防護服も着ることもなく、マスクに手袋、首から提げる線量計という、平服での視察だ。

 現状はさまざま、進んでいると感じる面もあれば、まだまだと息をのむところもあった。しかし、優しく諭すような代表の説明に、自然と気持ちは落ち着いていく。人生を事故の収束に懸けていることが端々に感じられた。

 代表の人柄が私を大胆にさせた。「被災者の物語(紙芝居)を職員さんに見てほしい」と、視察の最後に直接、提案した。その提案はすぐに実現し、紙芝居上演会が職員向けに開かれた。

 作業員の物語のシナリオは、今もまだ浮かばない。被災者の発した「東電の力がなければ福島の復興は進まない。協力し合う場面はあるだろう。でも、なれ合いはしない。許しはしない」との想(おも)いを大切にしたい。(まち物語制作委員会事務局長=広島市)

(2017年3月14日朝刊掲載)

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