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社説・コラム

天風録 「いがる復興相」

 字引では時に、目当ての言葉の脇に目が行く。「いか(怒)る」を日本国語大辞典で引くと、そばに「いがる」。中国路では、おなじみの方言である。大声でわめき、叫ぶさまを指す▲今村雅弘復興相の激高ぶりが浮かぶ。おとといの記者会見で原発事故に伴う自主避難者への見解をただされるうち、「出て行きなさい」「二度と来ないでください」と連発した。売り言葉に買い言葉の一部始終が早速、復興庁のサイトに載っている▲問題はむしろ別のやりとりだろう。帰るに帰れぬ自主避難者の苦境について思いやる言葉もなく「本人の判断」「基本は自己責任だ」。1カ月前、NHKの討論番組で「ふるさとを捨てるのは簡単です」として真意を問われたのをもう忘れたのか▲お騒がせのご仁らしい。この1月には、事もあろうに福島市の会議で「福島の復興はマラソンに例えると30キロ地点」とやった。スタートもまだの地域があると県知事にいさめられている▲避難者を巡る集団訴訟で先ごろ、前橋地裁が国の責任を認めた。人間観察が妙味のアラン著「定義集」にある。怒りは<恐怖から出てきた反射にすぎない>。いがる裏にも急所を突かれた恐れがあったのか。

(2017年4月6日朝刊掲載)

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