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社説・コラム

社説 米国のシリア軍攻撃 対話による和平を探れ

 閃光(せんこう)を放ち、59発もの巡航ミサイルが発射された。その映像に、かつての湾岸戦争やイラク戦争を思い出した人もいるだろう。きのう、トランプ米大統領はシリアのアサド政権軍に対して、軍事攻撃に踏み切った。

 シリアの反体制派支配地域で先日起きた化学兵器による攻撃について、トランプ氏はアサド政権によるものだと断定した。その報復で空軍基地などを攻撃した。6年前にシリア内戦が起きてから初の軍事介入だ。

 ただ、政権軍が化学兵器を使ったかどうか、確かな証拠はつかめていない。国連安全保障理事会での対応協議も緒に就いたばかりだった。非人道的兵器の使用が一時的に抑制される効果があるにせよ、シリア情勢がより混迷を深める恐れもあろう。

 この急展開を各国とも予想していなかったに違いない。トランプ氏は、アサド政権の退陣にはこだわらない考えを示していたからだ。過激派組織「イスラム国」(IS)掃討を重視し、ロシアと連携を続けてきた。アサド氏の後ろ盾であるロシアのプーチン大統領との友好関係を望んでいたとみられる。

 なぜ方針が百八十度変わったのか。トランプ氏は声明で化学兵器に対する怒りを示し、犠牲になった幼子らを「神の子」と呼び世論に訴えた。ロシアと一線を画し、化学兵器に厳しい姿勢を打ち出して、低迷する自身の支持率アップを狙った節もあろう。世界を驚かせた軍事行動には政治的思惑が垣間見える。

 一つには、オバマ前大統領との違いを見せることだ。

 4年前もアサド政権による化学兵器の使用疑惑が持ち上がった。オバマ氏は軍事介入を警告しながら見送り「弱腰」と批判された。これがシリアでの米国の存在感低下を招き、ひいてはロシアや中国の拡張主義的な行動を促したとみる向きもある。

 これについて、トランプ氏は「深刻な失敗だ」と批判した。しかし他国が特定政権を押し付けられないのは、米国が民主化を大義の一つに始めたイラク戦争の失敗でも明らかだ。声明から抜けていた和平協議の道筋をトランプ氏は示す必要がある。

 今回のミサイル攻撃にはもう一つ、中国と北朝鮮への警告の狙いもあったとみられる。中国との首脳会談のさなかだった。習近平国家主席との夕食中、トランプ氏は見せつけるように国家安全保障会議(NSC)スタッフと対応を協議したという。

 米外交筋の見立てはこうだ。北朝鮮制裁に消極的な中国に、「手をこまねいていれば北朝鮮も同様の目に遭う」とのメッセージを発信する思惑だったと。イラク戦争での米軍の動きが北朝鮮を6カ国協議に向かわせた前例もあるが、過剰に刺激すれば暴発を招きかねない。

 トランプ氏は「米国が正義の側に立つ限り、平和と調和が続く」と訴え、各国に同調を呼び掛けた。軍事面でも「米国第一主義」を示したいのか。ただロシアは猛反発しており、国際情勢は不安定さを増すだろう。

 日本は冷静な対応が求められる。しかし、安倍晋三首相は早々と米国支持を表明し、トランプ氏の強い関与を「高く評価する」と持ち上げた。対米追従一辺倒を続けるのでは、日本も、標的にされる恐れがないとはいえまい。むしろ対話による和平の先頭に立つべきだ。

(2017年4月8日朝刊掲載)

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