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被爆体験継承 家族描いた漫画 刊行 広島のまえださん 12年前の作 願いかなう

 広島市佐伯区のイラストレーターまえだなおこさん(44)が、家族内の被爆体験継承をテーマに描いた漫画「帰らない夏」を手作りの本にした。12年前に完成しながら出版できないままだったが、国立広島原爆死没者追悼平和祈念館(中区)の協力で刊行にこぎ着け、同館を通じて広島市内の図書館などに寄贈した。

 作品はB4判、555ページの大作。実際の家族の物語を、ドキュメンタリータッチで漫画化した。国民学校2年の時に爆心地から1.7キロの寺で被爆した父。その話を聞き、当時の状況の取材や制作に試行錯誤しつつ長い時間をかけ、アニメ映像にしていく兄。それに加わる母と作者自身…。

 その過程で出会った体験者らの思い、資金調達を含む現場の苦労に加え、何より被害の恐ろしさを伝えたい父と、被爆後の惨状は最小限にして失われた街と暮らしを再現したい息子の葛藤もリアルに描いた。

 父の前田正弘さん(79)の手記は広島市が市民から募り、被爆5年後にまとめた原爆体験記の中にある。1月に始まった同館の企画展で文章を映像とともに紹介した。その縁で館職員がまえださんの漫画を知り、後押しして30冊の少部数ながら製本が実現した。

 作中のアニメ作品も兄の前田稔さん(46)が監督をした「太陽をなくした日」として完成し、専門家の評価が高い。まえださんは「出版を願いながらかなわなかっただけに本になってほっとした。多くの人に読んでほしい」と喜んでいる。

(2017年5月22日朝刊掲載)

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