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藍染めに反戦の願い 防府の飴村さん 総理大臣賞を受賞

 防府市の藍染め作家飴村秀子さん(88)が、今年の第56回日本現代工芸美術展で最優秀に当たる内閣総理大臣賞を受賞した。受賞作「禊(みそぎ)(ヨハネ黙示録22―14)」は、戦時中に呉市の呉海軍工廠(こうしょう)で自らが体験した空襲がモチーフという。

 「国の名の下に、多くの人が亡くなった戦争を繰り返してほしくない」との願いを込めた作品は、縦1・6メートル、横1・3メートル。麻布にろうけつ染めで、濃い藍は工場沿いの海の底を、生成りのままの部分は海の底を割るように落ちた爆弾を表現した。

 呉市出身の飴村さんはこれまで、戦争体験をほとんど話さなかったという。学徒動員され、人間魚雷「回天」の部品を造っていた呉工廠で空襲に遭った。仲間と肩を寄せ合い、降り注ぐ爆弾の音を聞きながら死を覚悟した。「爆弾が落ちると海に穴が開くように見える。当時の心情を表現しました」

 今の広島市安芸区に疎開中、原爆が投下された。2日後、いとこを捜すため市中心部に入り、入市被爆。戦後、同市で染色家に師事した。教員生活と結婚を経て、藍染めを本格的に始めたのは1980年ごろ。研究を重ね、日展特選を2度受賞。2004年に中国文化賞を受けている。

 共に戦争を経験した同級生が次々に亡くなる中、「(回天製造に携わった)自分の過去は許されないかもしれないが、体験を形に残さなければ」との思いに駆られたという。カトリック信者で、作品は信仰心も映す。「絶望の中にも希望はあると伝えたい」

 同展は4月に東京で開かれた。今後、西日本では高松市美術館に12月2~7日に巡回予定。(原未緒)

(2017年5月26日朝刊掲載)

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