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社説・コラム

社説 相次ぐ原発再稼働 住民の不安 置き去りに

 関西電力が今月、高浜原発4号機(福井県高浜町)を再稼働させた。来月上旬には3号機も動かす。

 国内で稼働している原発は九州電力の川内(せんだい)原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)、四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)に続き4基目となった。

 高浜原発を巡っては、大津地裁が昨年春、「過酷事故対策や緊急時の対応方法に危惧すべき点がある」として、運転差し止めを命じた。この判断の重みを忘れてはならない。

 大阪高裁でこの決定は取り消されたが、裁判所から指摘された問題が解決できたわけではない。住民の不安を置き去りにしたまま、原発回帰の流れが加速していくことを懸念する。

 高浜原発4号機は昨年2月、再稼働準備中に冷却水漏れが起き、電気系統のトラブルで緊急停止した。今年1月には敷地内でクレーンの倒壊事故も起こした。原子力規制委員会が「緊張感を持ち、国民に心配をかけないよう努力しないといけない」と指摘したのも当然だろう。

 原発の安全管理には一つのミスも許されない―。そう肝に銘じる必要がある。

 事故への備えも十分とはいえない。政府は周辺30キロ圏の自治体に広域避難計画の策定を義務付けている。もし高浜原発で事故が起きれば、約18万人の避難が必要となる。

 広域避難訓練が昨年8月に実施されたが、悪天候のため船やヘリコプターが使えず、一部地域の住民が孤立する恐れが浮き彫りになった。避難する住民の移動手段の確保に加え、渋滞で逃げ遅れる懸念もある。地震や津波などとの複合災害も想定しなければならない。

 実効性のある広域避難計画をどう策定するかは、中国電力島根原発(松江市)や、伊方原発の30キロ圏内にある中国地方の自治体にも突き付けられた課題といえるだろう。

 原子力規制委は広域避難計画にはかかわっていない。国も了承するだけで、責任を持とうとしていないように映る。計画作りを自治体に丸投げするのではなく、安全はもちろん、住民の安心を担保できるよう努める責務が国にはある。

 使用済み燃料の処分の問題も見逃せない。既に再稼働している伊方原発と同様に、高浜原発3、4号機では、プルトニウムを加工した混合酸化物(MOX)燃料を使ったプルサーマル発電を新たに行う予定だ。

 この使用済み燃料の処理方法は今のところ見通せず、貯蔵プールで保管するしかない。しかし原発内にあるプールの余裕は少なくなっている。関電は、中間貯蔵施設の建設を表明しているが、まだ場所も決まっていない。にもかかわらず再稼働に踏み切ったのは無責任と言われても仕方あるまい。

 全国の原発に保管されている使用済み燃料は1万5千トンで、貯蔵容量の7割に達している。原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)をどこに保管し、どこで最終処分するのかという課題に早く道筋をつけることが不可欠である。

 核のごみの処分に対する国民の不安は小さくない。原発の賛否にかかわらず、全力で取り組まなければならない。問題を先送りにしたまま原発再稼働を進めることは認められない。

(2017年5月30日朝刊掲載)

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