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[「9条加憲」を考える 中国地方の国会議員に聞く] 自民党 林芳正氏(参院山口)

首相の提案 議論に一石

 安倍晋三首相(山口4区)は5月、戦争放棄を定めた憲法9条1項と戦力不保持を掲げた2項を維持しつつ、自衛隊を追加で明記する「9条加憲」を提案した。2020年施行も打ち出し、早期改憲へ意欲を強くにじませる。平和憲法の根幹である9条の改変となる提案内容や、目標期限を示した手法をどう受け止めるのか。中国地方選出の国会議員にインタビューし、評価や課題を聞く。

  ―現9条に自衛隊を書き加える首相の提案をどうみますか。
 9条を日本語として自然に読んだ場合、自衛隊がある現状は、(戦力不保持を掲げた)条文と合っていない。そうなると、海外からは、日本は憲法にちゃんと従わず、解釈でどんどん広げる国だと思われかねない。だから、首相の提案は、一つの意見としてはあり得ると思っている。

  ―座長である自民党の派閥・宏池会は、伝統的に9条改正に慎重なのでは。
 私の父(故林義郎氏)や故宮沢喜一元首相たち戦争を経験した宏池会の先輩世代は、9条が二度と過ちを繰り返さないための「ふた」になると考えていたと思う。ただ、それは平和を維持するための手段で、9条さえ守っていればいいという考え方ではないはずだ。

 国の安全保障は、防衛と外交の二つの柱から成り立っている。宏池会は伝統的に外交に重きを置き、防衛強化には抑制的だ。脈々と培われた伝統だ。しかし、防衛が不必要だと考えているわけではない。9条を変えることには慎重でありたいし、必然性も要るが、未来永劫(えいごう)変えなくていいのか、とも思う。

  ―首相案は受け入れられるということですか。
 改憲議論に一石を投じた意味ある意見だと思うが、何のためにそれをやるのかははっきりとしない。「憲法学者が、自衛隊を違憲だと言わないようにする」ということだけなのだろうか。

 自衛隊の明記により、海外から自衛隊の力を強くしようとしていると受け止められる恐れもある。逆に、解釈拡大の懸念をなくすとみられれば、いいメッセージになる。だから、条文案が出てこないと判断が難しい。憲法は条文そのもので、文字そのものが解釈を通じて意味を持つからだ。

  ―条文上、戦力不保持を定めた2項と整合性が取れなくなる、との指摘があります。
 そこは技術的な問題だ。「前項にかかわらず」と書けば、例外をつくったことになり、矛盾は避けられる。これも、条文案がないと議論できない。

  ―首相が20年施行という期限目標を示したことはどう考えますか。
 期限を設けないと物事は前に進まない。一方、期限内に達成できなければ「できなかったじゃないか」と批判される。首相は改憲議論を活性化させるためにあえてリスクを取ったのだろう。

 ただ、自衛隊の9条加憲は法律的な効果はあまりないかもしれない。改憲について考えるならば、私は参院の合区解消や環境権の必要性について議論する方が意味があると思っている。(聞き手は野崎建一郎、随時掲載します)

(2017年7月11日朝刊掲載)

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