×

ニュース

第20回核戦争防止国際医師会議 ヒロシマ平和アピール

 広島市で開かれていた第20回核戦争防止国際医師会議(IPPNW)世界大会は最終日の26日、核兵器廃絶とともに、原発事故などで「二度と新たなヒバクシャを出してはならない」と訴える「ヒロシマ平和アピール」を発表した。「原発、核廃棄物、核兵器など全ての核の連鎖は健康と環境、安全保障への危険に満ちている」と指摘している。

ヒロシマ平和アピール


第20回世界大会:ヒロシマから未来の世代へ
核戦争防止国際医師会議
ヒロシマ平和アピール
2012年8月26日

 記念すべき第20回核戦争防止国際医師会議(IPPNW)の開催を迎えたこの時期に、核兵器のない世界、核兵器による人類滅亡の脅威がない世界を求める世界的な情勢が大きく変化している。核兵器の壊滅的な人道的影響に対する緊急の運動によって、国家と市民社会が共に連帯し、この最も恐ろしい核兵器を禁止し廃絶する条約を要求している。

 また武力による暴力のために世界中の国々で毎年何十万人もの人々が殺され、何百万もの人々が負傷している。この世界的危機を阻止する行動を求める声が高まっていることにも我々は勇気づけられる。小型武器や軽量兵器による大量虐殺から核戦争による人類絶滅まで、戦争の防止は人々の健康にとって不可欠である。このような変化の兆しは、人間の安全保障が武力ではなく相互の尊敬と協力によってもたらされ、国際社会がより健康的でより平和な未来を作ることができるという希望の源である。

 原爆で破壊された二つの日本の都市のうち、最初に原爆で破壊され、世界に平和を訴える都市として復興した広島において、我々はこの最も緊急な課題に献身的に取り組むことを再び誓う。核の大火災や核兵器特有の残酷な放射線の影響で他のだれも死ぬことがないことを願い、自らが苦しみつつ生き続けた体験を語ってこられた広島と長崎の被爆者に我々は敬意を表する。

 我々は広島市の松井市長が8月6日に出した平和宣言を歓迎する。この中で市長は、平和市長会議が今年設立30周年を迎え、「核兵器廃絶と世界恒久平和」を求める世界の訴えに加盟した都市が5,300を超えたと述べた。我々はまた、長崎市の田上市長が言及した長崎大学核兵器廃絶研究センターの開設をうれしく思い、核兵器禁止条約を求めたことに賛同する。我々は、我々の共通目標を達成するまで、松井市長、田上市長、両市の被爆者と手を携えることを誓う。

 IPPNWは30年以上にわたり、医療関係者や政治指導者や市民に核戦争の健康被害について警告し続けてきた。IPPNWは最近、米国支部のPSRおよび著名な気候学者と共同で重要な科学的新発見を発表した。現存する世界の核兵器が一部使われただけでも核戦争によって世界の気候が大きく変動し、農作物が壊滅的な被害を受ける。都市全体が破壊され、何千万人もの人々が即死するだけでなく、「核の飢餓」が10年以上続くことが予想され、核爆弾から遠い人々も核兵器の使用命令を下した人々も含めて、少なくとも10億の人々が死亡する可能性がある。

 このような中、核兵器がもたらす壊滅的な人道上の影響や、核軍縮が医学的にも道徳的にも必要であるということに、外交および各国政府の関心が再び高まっており、この状況を我々は特に歓迎する。2012年にウィーンで開催されたNPT再検討会議準備委員会で、16カ国が発表した「核軍縮の人道的側面に関する共同声明」を基に、核兵器の人道的な危険性について世界の関心を喚起する国際会議が、来年3月オスロで開催される。我々は同会議を全面的に支援する。これによって核兵器のない世界をようやく実現する国際条約の基盤が作られると信じる。

 国際赤十字・赤新月運動は、核兵器による「筆舌に尽くしがたい人間の苦しみ」を予防し、核兵器が二度と使われてはならないことを再確認し、「核兵器の使用と完全廃棄に向けた具体的行動」を取ることを改めて誓う決議を採択した。この決議をIPPNWは特に重視する。核戦争が世界のどこで起きても、医学的対応が不可能なことを赤十字は繰り返し警告している。IPPNWと赤十字・赤新月運動は、核兵器廃絶と核戦争防止の必要性に関して同じ思いであり、赤十字・赤新月社連盟の近衛忠煇会長を始め赤十字・赤新月運動の代表者が広島に参加されたことを歓迎する。

 ICAN―核兵器廃絶国際キャンペーン―は核兵器禁止条約に対する世論を喚起する活動をしている。核兵器禁止条約は潘基文事務総長やデズモンド・ツツなど、著名なリーダーが支援している。IPPNWが2007年に立ち上げたICANは、幅広い国際的な市民社会のキャンペーンに成長した。IPPNWはICANの設立パートナーであるだけでなく、この活動において医師の声を代表することを誇りに思う。

 IPPNWの医師、研究者、活動家は、クラスター弾を禁止し、世界の違法な武器貿易を阻止し、武器暴力の根源に取り組むよう訴える市民運動において、医療関係者の声を代弁している。我々はAiming for Prevention(予防を目指す)」プログラムを通じて、地域社会の暴力防止に対する不十分な取り組みや、個人の生命や生活だけでなく家族や地域社会全体を破壊する銃の国際密輸組織の取り締まりがなされていない世界の現状を訴える活動をしている。最近実施された武器貿易条約会議は失望する結果となったが、IPPNWは58カ国の数千人の医療関係者の署名と共に「強力かつ人道的な武器貿易条約を求める医学的警告」を潘基文事務総長に提出した。通常兵器を意図的に無差別に民間人に対して使う者の手に入らないよう、人権が侵害されることがないよう、IPPNWは世界的な合意の締結を改めて要求する。

 唯一の被爆国である日本において、我々は核兵器の廃絶と武器暴力の予防を目指して集まった。我々はまた福島の悲劇も忘れてはならない。日本の人々は18カ月たった今も苦しんでいる。ウランの採掘、処理、危険な原子炉で核分裂物質を用いた発電、核廃棄物汚染、そして核兵器自体も含めたすべての核のチェーンは、健康・環境・安全保障への危険に満ちている。我々はこのような大規模な被害が今後起きないよう防止するために行動しなければならない。同時に、核兵器は半世紀以上も開発・製造・試験・使用の全過程において我々の健康と生存に対する最大の脅威であり続けている。我々は広島と長崎の貴重な犠牲から学んだ放射線医学や放射線防護の専門性を生かし、世界の被爆者医療に貢献する決意を新たにする。二度と新たな被爆者を出してはならない。

 IPPNWのメッセージは、この2週間にわたり20カ国40人によって長崎から広島に自転車で伝えられた。彼らは日本の蒸し暑い夏の最中、核兵器がもたらす壊滅的な影響と核廃絶を訴えた。ピース・バイクのツアーは外国でも実施されてきたが、これを企画した医学生たちは、IPPNWの未来を担う世代である。彼らのエネルギー、創造性、決意に、我々はみな勇気づけられ、二度とヒロシマが繰り返されないこと、二度とナガサキが繰り返されないこと、そして将来の世代がより平和な世界を受け継ぐことを確信する。

年別アーカイブ