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被曝への耐性 遺伝子が関与 広島大グループ実証

 広島大原爆放射線医科学研究所(広島市南区)の松浦伸也教授(放射線生物学)たちのグループは20日、放射線被曝(ひばく)に対する強さ、弱さに特定の遺伝子が関わっていると実証し、英科学誌サイエンティフィック・リポーツに発表した。同様の遺伝子は数十個存在するとされているが、因果関係を証明した研究は初めてという。

 放射線を浴びると細胞内のDNAが切断されるが、この傷が修復されやすいかどうかは個人差がある。一方、原発事故の被災地や医療現場などでの放射線の防護基準は現在、国際機関や国が一律に定めている。遺伝子レベルで放射線に対する個人差を実証したことで、将来的に防護基準を個人ごとに設定する道を開く可能性があるという。

 グループが着目したのは放射線の影響を受けやすい遺伝病の原因とみられる「ATM遺伝子」。この遺伝子が正常な女性1人の細胞を培養し、最新のゲノム編集技術で遺伝子に異常を生じる「変異」の状態を作り出し、0・5~2グレイの放射線を当てた。

 その結果、一対のATM遺伝子のうち片方を変異させただけでも、変異のない細胞と比べて、DNAへの傷の残りやすさが2・6倍に上ると分かった。この手法を使えば、他の遺伝子についてもDNA修復との関係を証明できる可能性があるという。

 DNAの修復に関係するいずれかの遺伝子に変異がある人は、人口の数%から10%程度いると推定されている。変異がある場合は、被曝によるがんのリスクが高まることなどが懸念されている。

 松浦教授は「倫理的な課題をクリアできれば、遺伝子変異を調べることでそれぞれの人の放射線に対する強さ、弱さが分かる。放射線に弱いと判明すれば、コンピューター断層撮影(CT)の検査回数を減らすなど、治療上の配慮がしやすくなるメリットがある」と説明している。(馬場洋太)

(2017年7月21日朝刊掲載)

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