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連載・特集

[つなぐ] 平和学習ボランティア 池上ジャッキーさん=英国出身

世界に発信 ヒロシマ人

 「敵味方なく若い人の夢や将来を奪うのが戦争。まずは身近な人と仲良くすることが大切」。原爆資料館の会議室で英国出身の池上ジャッキーさん(48)=広島市西区=は米国やカナダ、ニュージーランドの若者たち約50人に涙ぐみながら訴えた。米国を拠点に活動する音楽グループ「ヤングアメリカンズ(YA)」のメンバーたちである。

 日本人と結婚し、広島へ来て17年。さまざまな平和を伝える活動にボランティアで関わる。その一つがYAの広島公演のお手伝い。「せっかく遠い国から若い人が広島を訪れるのだから」と、2年前に平和学習の支援を始めた。

 活動に欠かせないパートナーが、原爆で両親を失った被爆者の笠岡貞江さん(84)=西区=だ。この日も「多くの悲惨な体験を乗り越え、話してくれた笠岡さんに感銘を受けた」との声が聞かれた。

 「国籍を問わず、戦争と向き合い、自分があの時代にいたら、と想像を巡らせることができる場所がヒロシマ」とジャッキーさん。英北部のスコットランドにある古都ダンファームリンで生まれ育ち、エディンバラ大で言語学を専攻。日本とは無縁だったが「西洋以外の文化に触れてみよう」と軽い気持ちで日本の外国青年招致事業(JETプログラム)に応募。1991年、外国語指導助手(ALT)として宮崎県に派遣された。

 そこで後に医師となる広島出身の男性と出会ったことが人生を方向付けた。結婚を機に広島へ。既に日本での生活は四半世紀を超えた。

 高校時代には友達と一緒に街頭でクリスマスソングを歌い、募金を集めてがんの研究施設に寄付したこともある。チャリティー活動が日常に根付く英国人の気質は今も変わらない。「困っている人がいたら、ちょっとしたことでもできる時に、できることをやればいい」。最近は、14歳の長女が通う広島インターナショナルスクール(安佐北区)を通じても、さまざまなボランティア活動に取り組む。

 例えば、2011年と翌年には同校の職員や保護者と一緒に東日本大震災で大津波に見舞われた岩手県陸前高田市を訪れ、食料や衣類を届けたり、がれきの撤去作業を手伝ったりした。

 大津波で街が失われた被災地の光景を目の当たりにし、「原因は違うが、広島と共通する部分がある」とも感じたという。途方に暮れる人たちと接するうちに、「原爆から立ち直った今の広島を見てほしい。希望になるはず」との思いも抱いた。

 来年1月には、約20カ国から集まる40人程度の学生たちの平和学習を受け入れる予定だ。被爆証言のほか平和記念公園(中区)の碑巡りや、被爆樹木のツアーも企画する。「人間同士のつながりから、平和な世界が始まるんだと思う」。被爆地で、各国から訪れる若者にその思いを伝えていくことが「ヒロシマ人」となった自分の務めだと受け止めている。(桑島美帆)

(2017年7月24日朝刊掲載)

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