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「黒い雨相談」に3000万円 厚労省概算要求 指定地域外の住民対象

 厚生労働省は5日発表した2013年度予算の概算要求に、広島原爆で降った「黒い雨」の国指定地域の外側で雨を浴びた住民たち向けの新たな相談事業の経費として3千万円を盛り込んだ。広島県、広島市への事業委託を想定している。

 対象は、国費で健康診断を受けられる指定地域から外れる、主に広島市と周辺2市5町の住民たち。保健所に窓口を置き、健康不安を抱える住民たちの話を聞く。必要に応じて医療機関を紹介する。「心身のケア」につながる相談プログラムを今後、精神保健の専門家らと検討する。

 経費は保健師ら相談員の人件費や研修費に充てる。今後、市などと体制を協議し、13年度中に事業を始める。同省健康局総務課は「黒い雨が健康不安の原因だと思っている人の心理的負担を軽減したい」と説明する。

 黒い雨の指定地域外で雨を浴びた住民たちの対策をめぐっては、市などが住民調査を基に指定地域を約6倍に広げるよう求めている。同省は、市の調査結果を再検証した有識者検討会の報告に沿って、「科学的合理的に考えて難しい」と拡大を見送り、相談事業の実施を決めた。

 被爆者対策費全体は1477億2500万円で12年度予算に比べ6800万円減。原爆症の認定を新たに3600人見込み、認定者への医療特別手当の支給総額を11億円増の215億円とした。一方、被爆者の減少に伴い、健康管理手当の支給総額を10億円減の658億円、健康診断費用も2億円減の25億円にとどめた。(岡田浩平)

「ごまかしだ」 憤りの声 広島

 広島原爆で降った「黒い雨」の指定地域外で雨を浴びた住民を対象にした相談事業の実施が厚生労働省から発表された5日、指定地域の拡大を訴えてきた地元住民から「ごまかしだ」などと反発の声が上がった。広島市と広島県は事業委託を受けて国に協力する一方、引き続き拡大を求める考えを示した。

 上安・相田地区黒い雨の会の曽里サダ子さん(74)=安佐南区=は「住民の願いに応えていない。指定地域の人と同じように雨を浴び、体の不調に苦しんできたのに」とため息をつく。

 広島県「黒い雨」原爆被害者の会連絡協議会の高野正明会長(74)=佐伯区=も「国は指定地域外での健康被害を認めたくないから相談事業でごまかそうとしている」と憤った。

 広島市の松井一実市長は5日の記者会見で「一歩前進ではある」と述べ、国から相談事業の委託を受ける意向を表明。一方で「民主党から地域拡大に検討の余地はあると聞いている。国と党の協議を見守りたい」と、地域拡大を引き続き訴える姿勢を強調した。

 もう一つの委託先と想定される広島県被爆者支援課は「関係市町と話し合い、事業に対する地元の意見や要望を国に伝えたい」としている。(田中美千子)

(2012年9月6日朝刊掲載)

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