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連載・特集

核禁条約 都市こそ連携 平和首長会議 海外市長からメッセージ 7~10日 長崎で総会

 平和首長会議(会長・松井一実広島市長)の4年に1回の総会が8月7日から10日まで、長崎市で開かれる。国連で核兵器禁止条約が採択された今、世界162カ国7392都市が加盟する非政府組織(NGO)のネットワークの役割は重い。中国新聞社は総会を前に、同会議の役員都市に核兵器廃絶に向けたメッセージを依頼し、海外26市のうち5地域の10市から電子メールで届いた。「市民社会が連携し、核保有国を動かす」という強い決意がにじむ。(桑島美帆)

①核兵器廃絶や平和のために何に取り組んでいますか②今年の総会への期待は③核兵器禁止条約をどう評価しますか④実効性ある条約にするため何が必要ですか

広島市 松井一実市長(会長)

 しっかり議論を集約し合意した後、次期行動計画を策定する。加盟都市が今後の共通認識を持ち、2020年に向け、活力の源となることを期待する。核兵器禁止条約は「存命のうちに核兵器の禁止を見届けたい」という被爆者の願いが認知され、相互不信による暴力や抑止力ではなく、核兵器に依存しない安全保障体制の構築を訴え続けてきたことが結実した。平和首長会議として各国の為政者が核兵器廃絶に向けて果断なリーダーシップを発揮し、建設的かつ前向きな議論に参加するよう世界の多様なパートナーとともに働き掛けていく。

長崎市 田上富久市長(副会長)

 歴史的な核兵器禁止条約が採択され、核兵器廃絶への機運が高まった今こそ、世界の都市や市民社会、若者と連携しながら核兵器のない世界に向けてさらに力強いメッセージを被爆地から発信する機会にしたい。条約は被爆者や被爆地の訴えが世界を動かし、長年の願いが形になった。前文に「核兵器使用の犠牲者(ヒバクシャ)の受け入れ難い苦痛と被害を心に留める」との文言が明記されたことに被爆地の市長として深い感慨を覚える。実効性を高めるためには核保有国と核の傘の下にある国々を含む、より多くの国が条約に加盟することが重要だ。

マンチェスター市 英国 エディ・ニューマン市長

 ①1984年に加盟し、2年前に英国・アイルランド支部も設立。被爆イチョウの木を育てる「プロジェクトG」を地域で展開し、小学校で広島の原爆と復興を学ぶ企画に取り組む。

 ②5月に市内で自爆テロがあり甚大な被害を受けた。欧州の役員都市と連携し、平和を脅かすテロや難民問題に関するキャンペーンを続けている。総会ではこの問題についても関心を集めたい。

 ③NPTの手詰まり状態を打破するのに有効で、核軍縮のひな型となる。国連の役割を強化した。今後、核兵器の非人道的な被害に関して議論が進むだろう。

 ④英国を含めた核保有国、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国や「核の傘」の下にいる日本とオーストラリアに対して新たなアプローチが必要だ。反核団体と連携し、全政党の下院議員に核軍縮の必要性を訴えていく。

マラコフ市 フランス ジャクリーン・ベロム市長

 ①長年、平和活動に取り組んできた。平和に関する展示会を続けており、今年は約70人の芸術家が参加した。住民と市職員を対象に、平和文化を学ぶ講座も運営している。

 ②ヒロシマ・ナガサキとの連携は、行政実務だけでない、思索や交流のための基礎となり、都市の公共政策に深みを与える。一堂に集まり知恵を出し合うことは重要だ。総会では、他都市の取り組みを評価し、知ることができる。

 ③核兵器を持つフランスの都市として望むのは、仏を含む全ての国が同じテーブルに着くこと。核の脅威は危険かつ致命的で、われわれ全ての問題だからだ。

 ④あらゆる種類の指導力を発揮すべきだ。多くの人の意識を高めるにはテロを含む暴力の発生源としての核兵器の役割に関する研究が必要。難民支援などに対応するため国や都市の連携を高めなければならない。

ハノーバー市 ドイツ シュテファン・ショストック市長

 ①創設時からの会員都市として、また広島市の姉妹都市として活動。「ドイツ平和首長会議フラッグデー」を開催したり被爆樹木を植えたりしてメディアの関心を集めている。インターネット中継で学生たちと被爆者をつなぎ、証言を聞く場も設けている。

 ②価値ある討論と、将来の行動に向け、刺激を受けたい。都市間ネットワークを広げ、核軍縮の進展状況を再点検する機会にする。

 ③歴史的な条約だが、まだ道のりは長い、というのも現実。われわれのようなNGOの強力な運動が肝心である。原子力の民生利用の権利を明記していることは残念だ。

 ④条約実現まで大変だったが、これから条約を実行に移すのも大変だ。われわれはドイツ政府に核軍縮を主導するよう要求している。長期的視野で楽観的に、不参加の国々へ条約をアピールする必要がある。

グラノラーズ市 スペイン ジョセフ・マヨラル市長

 ①被爆70年に、首都のバルセロナや国内の各都市で原爆展を開いた。また、市議会でスペイン政府に対し、核兵器廃絶を進める国々と連帯することや、武器貿易に関わらないことなどを求める宣言を決議した。

 ②地方自治体が集まる世界最大の組織として、大きな責任がある。政府が沈黙するなら、都市が声を上げるしかない。今回の総会を核兵器廃絶への機運を盛り上げる場にすべきだ。

 ③保有国やその同盟国は背を向けているが、この条約は核抑止政策を明確に違法化するもの。核兵器に関する各国の姿勢や原則、発言を変えていくだろう。

 ④核兵器数の削減に向け、まずは条約を履行に移す必要がある。禁止条約は核兵器の意味を変え始めている。数年前の対人地雷禁止条約のように、軍縮や人道問題を巡り国際社会と各国内の内政に大きな政治的効果をもたらすはずだ。

ビオグラード・ナ・モル市 クロアチア イヴァン・ネス市長

 ①市役所前に折り鶴のモニュメントを置き、毎年8月6日に広島と長崎の原爆犠牲者を慰霊する式典を開いている。国内32都市に加えてスロベニア、ボスニア、イタリアの姉妹都市も勧誘し、加盟を増やした。

 ②日本に集中した体制では難しい面もあり、欧州にも拠点があればと思う。欧州はアジアとは異なる問題を抱えている。核兵器に加えて、テロや難民の問題など、世界規模の新たな課題に取り組む方向性を議論したい。

 ③大きなステップだが、残念ながら核兵器保有国など主要国の参加なしには何も進まない。努力を続けなければならない。

 ④全ての市民が核兵器の危険性を共有する必要がある。これは、教育や講義、会議やワークショップなどを通して広めるしかないだろう。この条約に署名した全ての国々が、働き掛けをしていく必要がある。

フォンゴトンゴ市 カメルーン ジャン・ポール・ナンファック副市長

 ①アフリカ大陸で核兵器の脅威について啓発を重ねている。アフリカの加盟都市は370だが、4分の1はわが市からの勧誘だ。平和首長会議の訴えを広める組織として「アフリカの平和と開発のための報道アクション」も発足させた。

 ②具体策を伴う行動計画へ、十分な議論を期待する。最終日のナガサキアピールでは、テロ問題や国連が提唱する「持続可能な開発目標」にも言及してほしい。カメルーンなど各地で、テロは平和に対する最大の脅威。開発目標の達成は、われわれにとっての「安全保障」だと信じる。

 ③勇気づけられる動きだ。核保有国に圧力をかけ続けなければならない。

 ④まずは条約に署名することが何よりも必要だ。簡単ではないが、核保有国は条約を支持するわれわれに続くべきだ。かけがえのない地球は、核兵器を保有する大国の物ではないのだ。

モンテンルパ市 フィリピン ジェイム・R・フレスネディ市長

 ①フィリピンの人口の約2割は若い世代。彼らを平和志向に育てなければ、将来が危ぶまれる。このため、若い世代の平和教育に力を入れている。地域の中学・高校の約3万人の生徒を対象に、公開討論や展示会などで学ぶ構成だ。

 ②それぞれの参加都市を取り巻く状況に応じて、平和を推進するための最善の事例を見たい。参加者が発表する平和や核軍縮の推進に関する資料や討論は、参考になるはずだ。

 ③完全な核兵器廃絶をもたらすであろう条約を全面的に支持する。原爆投下から70年以上たった今も、放射線被害に苦しむ被爆者は多い。核拡散は国連や欧州連合(EU)でも常に最大の懸案事項だ。

 ④都市は率先して平和を推進できる。テロが国際社会にはびこる中、平和首長会議の加盟都市の連帯は、目の前にある試練を乗り越える力になるだろう。

デモイン市 米国 フランクリン・カウニー市長

 ①米国のリーダー都市として6月、約3万都市が加盟する全米市長会議でトランプ大統領に対し核兵器を巡る緊張緩和や核兵器関連の支出削減を求める決議文を提案。全会一致で採択された。

 ②総会は欠席するので残念だが、世界の自治体が「2020ビジョン」達成の戦略を練る重要な総会となる。条約を通して次に何ができるかを話し合う場だ。

 ③ツイッターで核能力の増強に言及したトランプ大統領と裏腹に、世界の国の多数派は禁止条約を通じて「思慮分別」を表した。特に「威嚇の禁止」は核抑止力の違法化であり、核軍縮を進める上で役に立つ。

 ④核保有国や核の傘に頼る国々に訴える手段として条約を活用すべきだ。全米市長会議の決議では条約の交渉の支援や核軍縮の多国間協議の開催を求めた。米国の市長としての役割を果たしたい。

モントリオール市 カナダ デニス・コデール市長

 ①1989年に加盟した。毎年8月5日夜、市内の「ヒロシマの平和の鐘」の前で平和式典を開く。平和のための公園も市内に点在する。平和や差別を巡る問題に取り組むNGOとの関係強化を重視している。

 ②加盟都市と十分に議論を重ね、情報交換する。最終文書「ナガサキアピール」の起草にも貢献したい。

 ③122カ国が賛成した重要な条約で、正しい方向へ踏み出した。最も重要なのは「二度とこの苦しみを繰り返してはならない」という「ヒバクシャ」の訴えが受け入れられたことだ。

 ④都市外交を通し、核兵器廃絶を推進すべきだ。目標達成には加盟都市を増やし、世界的に注目されなければならない。また、あらゆるレベルの学校や大学で、平和のメッセージを広め、宗教の垣根を越えた対話などを奨励するよう、われわれ市長が国に働き掛けるべきだ。

フリマントル市 オーストラリア ブラッド・ペティット市長

 ①われわれは地元市民の協力を得て、平和な社会を築くためのさまざまな活動に取り組んでいる。2014年には西オーストラリア州の自治体関係者が集まって反核宣言を採択し、われわれの自治体や地域を決して核攻撃目標にはさせないという誓いを確認した。オーストラリア在住の絵本作家で被爆者でもある森本順子さんの力強い証言にも耳を傾けた。

 ②総会が核兵器禁止条約への注目度を高め、世界中の国々の連携を広げることを確認したい。

 ③世界の多数の国々が条約に署名したことは、完全な核兵器廃絶に向けて大きな励みとなる前進だ。

 ④国家と国際社会のレベルの双方で強いリーダーシップを発揮すると同時に、核兵器廃絶に向けて大きな変革をもたらすため、草の根のレベルで圧力をかけ、地域社会の意識を高めることが必要だ。

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国内の組織力 どう生かす

 2017年の総会は長崎大の中部講堂を拠点に開かれる。今のところ40カ国から、193の加盟都市の代表が出席予定だ。従来からある行動指針「核兵器廃絶のための緊急行動(2020ビジョン)」を軸に、今後3年間の運動をどうするかを話し合い、「ナガサキアピール」に結実させる。

 最大の焦点が7月7日に国連の会議で採択された核兵器禁止条約をどう生かすかだ。条約の実現は、2020年までの核兵器廃絶を目指す行動指針に盛り込まれていた。そして産声を上げた実際の条約にもNGOの貢献をたたえる規定がある。

 核兵器を持つ国やその同盟国はかたくなに禁止条約に背を向ける。米国の「核の傘」に頼る被爆国日本もその一つだ。条約の実効性を高めるためにも都市や住民の視点に立った国際世論への働き掛けは、世界中にネットワークを張り巡らした平和首長会議だからこそ可能になる。

 課題は少なくない。1985年の最初の会議以来、世界から被爆地に集まること自体に意味を見いだす時代もあった。しかし核兵器廃絶が単なる理念ではなく、より現実的な目標となった以上、それぞれの活動内容が重要になる。

 特に核保有国からの参加都市である。昨年のオバマ米大統領(当時)の歴史的な広島訪問以降、初の総会となるが原爆投下国の米国からの参加はなく、核保有国は英国、フランス、インドにとどまりそうだ。

 足元の日本国内で全市町村の大半に当たる1679自治体が加盟している。その規模をどう生かすかも問われる。2008年、広島市と長崎市以外は海外だけだった組織の門戸を国内に広げ、加盟数は急速に拡大した。とはいえ具体的な活動への熱意は温度差がある。条約批准に消極的な政府や国会を動かすにはさらなる取り組みが欠かせない。

 さらにいえば、世界を脅かすのは核兵器にとどまらない。貧困や暴力、紛争とどう向き合うか。途上国の都市からの意見に多い、より幅広い平和構築の活動も決して避けて通れない。

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平和首長会議
 最初の名称は世界平和連帯都市市長会議で、1982年に開かれた国連軍縮特別総会で荒木武広島市長(当時)が提唱した。91年に国連経済社会理事会のNGOに登録。2001年に平和市長会議となり、03年に「2020ビジョン」を策定した。13年に区町村の加盟を増やすため現在の名称に。広島市長が会長、長崎市長が副会長。総会は広島市と長崎市で4年置きに交互に開く。長崎開催は09年以来、8年ぶり。

(2017年7月31日朝刊掲載)

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