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連載・特集

いしぶみに刻む <3> 原爆死没者之碑(山口市江良) 核兵器の惨禍浮き彫り

 山口市江良の国道9号沿い。墓地の隣に、白い大理石でできた原爆死没者之碑が立つ。かつてここには約30年間、墓標もないまま被爆者が葬られていた。

 向かって右に花をささげる少女、左に嘆きの母の像を配し、独特の美しさと優しさで核兵器の惨禍を際立たせる。右手をつり下げられた男の像は高さ3・2メートル。深く、癒えぬ原爆の傷を移り変わる影で表す。奥の納骨堂は時代の風雪に耐えるようノアの箱舟をモチーフに、「永遠の平和を誓い いしぶみに 原爆犠牲のみ霊安めん」と刻まれている。

 1971年、広島で被爆した軍人のカルテが見つかり、旧陸軍病院跡近くに数十人がまとめて仮埋葬されていると判明。「あの日」から28年後の73年9月、13体以上が掘り出され、納骨された。「悲惨な歴史を忘れないように、ここに碑を建てた」。県原爆被爆者支援センターゆだ苑(山口市)の岩本晋理事長(74)は話す。

 発掘を始めた9月6日を「山口のヒロシマデー」として、75年から毎年、碑前で追悼式典を催している。

 県内の被爆者健康手帳を持つ被爆者数は2809人(ことし3月末現在)で、20年前と比べ半数以下になった。岩本理事長は「広島、長崎の被爆者も亡くなる日が来る」とつぶやく。「それでも碑は、核兵器廃絶の願いを伝え続けるはずだ」(折口慎一郎)

(2017年8月5日朝刊掲載)

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