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社説・コラム

天風録 『草むす慰霊碑』

 墓参りに行くと、カラフルな盆灯籠が並んでいた。手向けられた花々やかぐわしい線香で墓園もにぎやかな時期である。一方、草が墓を隠すほどに伸びた、参拝者のいないらしい区画を見た▲墓地への道すがら、住む人のいなくなった空き家も何軒か目にした。都市へ出た子や孫が戻らなかったのだろう。墓や集落、田畑は今後どうなっていくのやら。墓前で静かに手を合わせたものの、そんな不安がよぎる▲きのう全国戦没者追悼式があった。参列した遺族のうち戦没者の妻は6人にまで減ってしまっている。沖縄で夫を亡くした101歳女性が最年長。遺族の高齢化が進む。6歳女児の姿もあったが、10年後の追悼式は果たして▲戦没者を悼む慰霊碑は身近にもある。中国5県に民間建立の碑は1400基余り。これも管理が難しくなってきたと、きのうの本紙にあった。守り手「不明」が、3分の1。遺族が減ってやむなく撤去される碑もある▲まだ113万柱もの遺骨が異郷に残されたままだという。戦後72年がたったが、山海にうち捨てられた兵や民をはじめ、戦没者を埋もれさせてはならない。戦争の悲惨な記憶や不戦の誓いを、「草むす屍(かばね)」にしないためにも。

(2017年8月16日朝刊掲載)

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