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連載・特集

『生きて』 医師・広島大名誉教授 鎌田七男さん(1937年~) <14> 原爆後障害研究会

未解明の問題見つめて

 放射線の影響を研究するには、高線量の被爆者でないと本当のことは分からない―。そう考えていた研究の頃を思うと、忸怩(じくじ)たるものがあります。入市被爆者を顧みていなかった。2001年に園長に就いた原爆養護ホーム「倉掛のぞみ園」(広島市安佐北区)でさまざまな被爆体験者と接し、高線量にとどまらないと気付いて調べました。

 広島大原爆放射能医学研究所で1970~90年に診察を受けた入市被爆者から白血病患者113人を同定し、入市時期別に検討すると、「8月6日」に入った男性の白血病発症率は、通常よりも3倍高い。06年の原爆後障害研究会で発表しました。

  現広島原爆障害対策協議会(53年設立)が59年に始めた研究会は、長崎市でも隔年で開催され、鎌田さんは62年から発表を続けてきた
 被爆2世の調査も大学を退いてからです。広島県と広島市は直接・入市の被爆者とその家族の調査を73~74年に行い、原医研が協力してリストを作成したんです。関係機関の承認を得て、現在の原爆放射線医科学研究所メンバーと解析しました。

 46年5月1日から73年末までに生まれた子どもは11万9331人でした。74年以降の出生児などを考慮し、県内の被爆2世は13万~13万5千人と推定されることを10年の研究会で報告。さらに白血病発症を調べると、73年末までの被爆2世集団のうち94例が判明した。親の両方が被爆している場合は、一方のみより発症頻度の超過が有意に見られた。

 内部被曝(ひばく)については15年に発表しました。ある出産直後の女性は、自宅が爆心地から約4・1キロの古田町(西区)だったのに、放射性降下物「黒い雨」が降った周辺の水や野菜を摂取し、四つのがんを発症した。保管されていた肺がん組織を長崎大と調べると、発生源はウランと思われる放射線の痕跡を見つけました。

 入市被爆や内部被曝の問題は今も見過ごされています。国際放射線防護委員会(ICRP)は、原爆の残留放射線は線量が明確でないとして初期放射線のみを扱い、人間の線量限度に用いる。多くの科学者がそのデータを使っている。放射線の影響は未解明であり、実態に真摯(しんし)に向き合わねばなりません。

(2017年8月12日朝刊掲載)

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