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連載・特集

[ヒロシマは問う 北朝鮮核開発] 広島修道大法学部教授 王偉彬さん

過剰反応せず冷静対処

  ―北朝鮮を巡る危機をどう見ていますか。
 北朝鮮がこの1、2年、ミサイル発射や核実験などの威嚇をエスカレートさせたのは、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長たちを狙った「斬首作戦」への恐怖心の裏返しだ。通常兵器で米韓両国に圧倒される中、核兵器の保有が軍事バランスを保つ唯一の選択肢とみているのではないか。

  ―日本では「北朝鮮の攻撃の標的になる」と不安視する声もあります。
 徹底的に追い詰めるとまずいが、自ら戦争を仕掛けてくるとは考えにくい。緊張は理解できるが、標的としての優先度は米韓両国より低い。過剰な反応をせずに冷静に対処するべきだ。むやみに緊張や対立の雰囲気をつくらないことが重要だ。制裁もやりすぎは逆効果になる。たとえば石油禁輸の制裁では、かつて日本が追い詰められ、真珠湾攻撃をした歴史から学ぶ必要がある。

  ―中国はどう動きますか。
 中国は、北朝鮮が米韓両国との緩衝地帯であり続けるとともに、朝鮮半島全体の非核化を望んでいる。北朝鮮の核を認めれば、日本や韓国、台湾など周辺国・地域が次々に核を持つ「ドミノ」が起こりかねない。核開発につながった資金ルートを止めつつ、食糧など民生物資の援助は続ける対応をするだろう。ただ、中朝関係は、パイプ役だった北朝鮮の高官が粛清されて以来、冷え込み、あまり打つ手がなくなっている。

  ―解決の糸口は見えませんか。
 米韓両国が準備を進める「斬首作戦」は、リスクが大きい。失敗すれば、日本の米軍基地などが反撃されかねない。成功しても、北朝鮮の次の指導者が核を放棄するとは限らない。

 対話による解決も、妥協なくしてできない。北朝鮮に核を放棄させるなら、在韓米軍の撤退と南北不可侵条約が条件になるだろうが、今は現実的ではない。

  ―ヒロシマには、何を期待しますか。
 「戦争による新たな被爆者、被爆都市をつくるな」と、より強く発信してほしい。米国の攻撃により、北朝鮮や周辺地域で被爆者が出てもいけない。真理なのだから、堂々と発言するべきだ。(馬場洋太)

ワン・ウェイビン
 1957年、中国山東省生まれ。京都大大学院博士課程修了。広島修道大法学部助教授を経て2004年から現職。専門は中国政治外交、東アジア国際政治。日本語の著書に「中国と日本の外交政策」。

(2017年9月13日朝刊掲載)

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