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連載・特集

[ヒロシマは問う 北朝鮮核開発] 早稲田大法学学術院教授(憲法学) 水島朝穂さん

米朝双方に廃絶発信を

  ―核やミサイル開発を進める北朝鮮への対応を考えるとき、被爆地・広島の役割をどう考えますか。
 トランプ米大統領は北朝鮮に対し「あらゆる選択肢がテーブルの上にある」と言い、安倍晋三首相も支持してしまった。核攻撃も選択肢にあると言ったのに等しい。ドイツのメルケル首相は武力行使を否定し、積極的な仲裁外交を宣言してトランプ氏と明確に距離を取った。

 「ヒロシマ」「ナガサキ」は、核攻撃を許さない主張に最大の説得力を与える存在だ。戦争拒否の憲法9条の理念を象徴する場所でもある。北朝鮮と米国の双方に市民、メディア、自治体が核兵器廃絶を発信し続けることこそ日本の安全の組み立て方ではないか。

  ―核兵器廃絶と安全保障をどう結び付けますか。
 1970年代後半の旧ソ連による中距離核ミサイルSS20の配備を巡る対立で、欧州では市民の大きな反核運動が起きた。核攻撃で欧州が灰となった後、米ソが手打ちする「限定核戦争」の恐れを感じたからだ。中距離核の廃棄につなげたのは力と力の均衡論ではなく、世論の力だ。

  ―現在の政府対応をどう見ますか。
 ミサイル迎撃の破壊措置命令が継続している。当初は乱用防止策などが議論された制度だが、うやむやになっている。自民党内では非核三原則の見直しや、中距離弾道ミサイル導入の意見も出てきた。自衛力の「必要最小限度」は国際情勢で変化するというのが内閣法制局の論理だが、北朝鮮を言い訳に「必要最小限度」が肥大化する恐れがある。

  ―北朝鮮に対する国民の不安が広がっているように見えます。
 第2次世界大戦中は「空襲から逃げるな。消火せよ」と求められ、バケツリレーをしないと非国民扱いされた。国が恐怖や不安を利用して政策を進め、国民の思考が止まった、かつての構図が復活しかねないと心配している。

  ―北朝鮮の脅威を解消する道筋は。
 米軍基地があるから日本が攻撃対象になる。「武力による威嚇はしない」とする腰の据わった9条を私たちは持っている。「威嚇」には核抑止力も含むとの解釈がある。日本は米国の核の傘から出るべきだ。

  ―政府は核兵器禁止条約に署名しない一方で「現実的、実践的な核軍縮」をすると主張しています。
 条約の否定は、米国への過剰な忖度(そんたく)による。「戦争は嫌だ」との主張は感情論と受け止められがちだが、感情を原点に理性が生まれる。市民みんなで語り合って反戦、反核の勇気を持ち寄り、忖度を乗り越えたい。(聞き手は武内宏介)

みずしま・あさほ
 1953年東京都生まれ。専攻は憲法・法政策論。広島大助教授などを歴任。「平和の憲法政策論」「18歳からはじめる憲法」など著書多数。

(2017年9月15日朝刊掲載)

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