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社説・コラム

社説 ’17衆院選 憲法 議論の行方見極めねば

 平和国家をうたう日本が今後、どんな方向に進んでいくべきか―。10日に公示される衆院選は、その針路を見極める重要な選挙でもある。

 選挙結果によっては、9条を含めた憲法改正を宿願とする安倍晋三首相の率いる自民党やそれに同調する勢力の3分の2超えが定着し、改憲が一段と現実味を増すからである。

 今回の衆院解散は、首相が改憲勢力を維持するため、勝てるタイミングを探ったとされる。

 しかし解散表明の記者会見では、首相は改憲について一言も触れなかった。北朝鮮情勢や少子高齢化を「国難」として挙げ、消費増税の使い道の変更について国民に信を問うのだと説明した。争点の誘導で危機感をあおったとすれば、それこそ国を危うくする。

 こうした安倍首相の姿勢や政権運営の在り方は、選挙戦でまず問われるべきではないか。

 国政選挙ではこれまでも、改憲には積極的に触れようとせず、経済再生や社会保障などを前面に掲げて有権者の関心を誘い、4連勝してきた。勝利を収めると今度は改憲への意欲を強調し、憲法審査会などでの議論を促してきた。

 9条改正の下地をつくる法律制定の時もそうだった。言論の自由を侵す恐れのある特定秘密保護法、専門家が違憲と指摘する安全保障関連法、内心の自由を侵す懸念がある「共謀罪」法などである。根強い反対の声を押し切り、数の力を頼みに次々と通してきた。

 今回の総選挙で、首相は9条に自衛隊を明記する改憲案を自民党の選挙公約として盛り込む考えだという。ただ党内には異論もくすぶり、性急さが否めない。とはいえ総選挙で勝てば、改憲に「国民の支持が得られた」とする可能性もある。

 安保法制への反対運動が盛り上がって以来、安倍政権のこうした姿勢に疑問を抱く市民が各地で立ち上がっている。既存の野党が手をつなぎ、立憲主義を守ろうと訴えてきたことも有権者は忘れてはなるまい。

 では、現政権の対抗勢力として急浮上し、民進党をのみ込むなど共闘の構図を変えつつある希望の党はどうか。

 小池百合子代表はかねて憲法改正に肯定的で、安保法制を推進する立場を取ってきた。安倍首相が目指す自衛隊明記の改憲案こそ批判するものの、「広く議論しようという点では変わりない」と認めている。

 民進からの「合流」を望む候補には、憲法観の違いも選別の条件とする考えを明言している。与党の「対立軸」どころか「補完勢力」と批判されるのも無理からぬことである。

 小池氏は、自民の改憲4項目には入っていない「地方自治」などから憲法に手を付けたい意向らしい。

 日本の針路を考える上で、9条を含めた改憲について、どう考えるのかは避けて通れない。各地の首長選などで成果を上げてきた野党共闘も、憲法論議を脇に置き、安倍政権でなければ何でもいいというわけではなかったはずだ。

 今後、各党、各候補者は、憲法改正や安全保障についてどのような姿勢と政策を示すだろうか。私たち有権者は選挙公約をつぶさに吟味し、その本質を見極めねばならない。

(2017年10月1日朝刊掲載)

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