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[地域の明日 2017衆院選] 禁止条約 論争乏しく 非核の願い

被爆者 政府に加盟訴え

 「原爆で親族、友人を失い、悲惨な光景を目の当たりにした者として、とても許せない」。1日、広島市中区であった核兵器禁止条約の推進を求める集会。被爆者の田中稔子さん(78)=東区=は、条約に加わらない日本政府に対する胸の内を語った。

 禁止条約は核兵器を持たない国が主導し、7月、国連での交渉会議で122カ国・地域の賛成により採択された。米国の「核の傘」に安全保障を頼る日本政府は交渉に不参加。安倍晋三首相は8月6日、被爆地広島で、核保有国と非保有国との対立を深めるなどとして条約を批准しない方針を明言した。従来の段階的な軍縮の道を選ぶ。

「批准へ行動を」

 田中さんが通った幼稚園は、原爆で壊滅した旧中島地区(現中区の平和記念公園)にあった。自身はあの日、爆心地から約2・3キロの牛田町(現東区)で被爆した。6月、禁止条約の議論が深まる米ニューヨークの国連本部を訪れ、非政府組織(NGO)の関連行事で、被爆地の惨禍に触れて条約の制定を訴えた。

 保有国による軍縮が停滞する中、田中さんは新たな条約が「核兵器なき世界」への道だ、と信じる。「被爆国日本の政治リーダーは勇気を持って批准への行動を」。条約が採択されて初の衆院選で、論戦を通じて政府の方針転換を願う。

 ただ前哨戦で、条約を巡る論争は盛り上がっていない。

 広島原爆の日の翌8月7日。「被爆国として、米国を説得してでも条約に入る選択肢があっていい」。当時の野党第1党、民進党の前原誠司代表は、党代表選への立候補会見で政府方針をけん制してはいた。条約を推進する他党も含めた国会論戦が期待されたが、先月28日に衆院は解散。民進党は野党再編で分裂した。

 核を巡っては、安倍首相は、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮への「圧力路線」について衆院選で信を問う考えを示す。

国内問題が中心

 韓国統一省で専門官を務めた広島市立大広島平和研究所の孫賢鎮(ソンヒョンジン)准教授(北朝鮮問題)は「論戦は現状、日本の防衛など『国内問題』が中心」と指摘する。その上で、「交渉の局面になった時、どうやって北朝鮮に核兵器放棄の意思を持たせるか。先を見据えた外交政策の論争にも力点を置いてほしい」と注文する。

 1日にあった禁止条約推進の集会。流動する政治情勢に、参加者から「1票をどこに託すべきか悩ましい」との嘆きが漏れた。集会に参加していた広島県被団協(坪井直理事長)の箕牧(みまき)智之副理事長(75)は、切実に訴えた。「立候補者も有権者も、核兵器の問題にもっと関心を持ってほしい」(水川恭輔)

核兵器禁止条約
 開発や保有、使用など核兵器に関わる行為を全面的に禁止する初の国際条約。前文で被爆者の苦しみと廃絶への努力に触れている。3月に交渉が始まり、7月7日に122カ国・地域の賛成で採択された。米ロなど核保有国や日本は交渉に不参加。50カ国・地域が批准の手続きを終えた後、90日後に発効する。9月20日に署名が始まり、同月末時点で53カ国・地域が署名している。

(2017年10月5日朝刊掲載)

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