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連載・特集

日韓の絆 時代超え 朝鮮通信使再現行列 呉市下蒲刈島で15日

 朝鮮通信使再現行列が15日、呉市の下蒲刈島である。江戸期に朝鮮半島から訪れた外交使節団をもてなした様子を再現する。

 島内には通信使が海を渡る姿を描いた絵巻物が残る。こうした日韓の関連資料は今年秋、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界の記憶」(世界記憶遺産)に登録されるとの期待が膨らむ。

 再現行列に加え、もてなした料理の伝承、観光ボランティアのスキルアップ、PR冊子作りなど、歴史と文化を守り伝える機運が高まっている。再現行列は蘭島文化振興財団、朝鮮通信使行列保存会、中国新聞社が主催。(今井裕希)

歴史絵巻 踊りや演奏も

 再現行列は午前11時、下蒲刈市民センターを出発する。チマ・チョゴリや礼服に身を包んだ住民、在日本大韓民国民団(民団)広島県地方本部のメンバーたち約250人が、松並木の石畳約1・2キロを練り歩く。道中の福島雁木(がんぎ)では、地元青年会が櫂伝馬(かいでんま)で乗り付ける。

 終点の下蒲刈中には、午後0時45分ごろに着く。正使役の韓国・昌原(チャンウォン)市鎮海(チネ)区の林寅漢(イム・インハン)庁長と、江戸幕府将軍役の呉市の木坂修副市長が国書を交わし友好を誓う。両市は姉妹都市。

 民団広島県本部豊田支部メアリ会が舞台に初登場。韓国舞踊「扇の舞」を披露する。下蒲刈中の1年生は和太鼓をたたく。

 松濤(しょうとう)園では、世界記憶遺産に登録申請した関連資料でもある絵巻物「朝鮮人来朝覚(おぼえ)備前御馳走(ごちそう)船行烈(ぎょうれつ)図」の実物を展示する。

料理

もてなしの心 品数に結実 味再現する店も

 広島藩は、下蒲刈島に寄港した朝鮮通信使の正使たちを豪勢な食事でもてなした。錦糸卵を敷いたタイの丸焼き、アワビのしょうゆ煮など、圧巻の品数を誇る料理は「三汁十五菜」と呼ばれる。料理は朝晩出された。「安芸蒲刈御馳走(ごちそう)一番」。通信使に同行した対馬藩主がそう称賛したと幕府の記録にはある。

 「将軍の食事ですら一汁四菜。言葉が通じなくても、受け入れの気持ちを伝えるため、料理の数を増やしたのだろう」と松濤園の小川英史学芸員(34)。再現料理の迫力に息とつばをのむ。

 全力のもてなしを再現する料理店が、安芸灘4島にはいくつかある。呉市豊町大長の「ゆたか海の駅とびしま館」もその一つ。経営する菅原美保さん(65)は、かつて下蒲刈島の民宿でも料理を出していた。

 献立と食材の一部を記録した資料を基に再現する。菅原さんは「今でも材料集めに2週間かかる。冷蔵庫がない時代はさらに苦労したろう」と話す。

 今回も、キジのつけ焼きはホロホロ鳥で代用した。当時は一般的でなかった肉料理が、献立に入っているのも珍しい。菅原さんは「料理を通じて、交流を大切にした先人の気持ちを伝えたい」。

ガイド

世界記憶遺産へ経験積む 地元ボランティア

 世界記憶遺産登録に向けて、下蒲刈島では準備が進む。9月27日には絵巻物を所蔵する松濤園で、地元の観光ボランティア船田孝興さん(76)、高三智王(みちお)さん(67)、妙子さん(67)の3人が、絵巻物の価値や解説するべきポイントなどを学芸員とおさらいした。

 松濤園を運営する蘭島文化振興財団は、登録後、見学者に配る冊子や、横断幕のデザインを考案中だ。柴村隆博事務局長は「ユネスコの冠が付けば知名度も上がる。見学者を迎える準備をしっかりしていく」と登録決定を心待ちにしている。

イベント

 下蒲刈島は11月12日まで、「文化と歴史の祭典」で盛り上がる。再現行列も多彩な催しの一環だ。

 松濤園の蒲刈島御番所では11月11、12の両日午前9時~午後4時、「秋の茶会」がある。上田宗箇(そうこ)流の茶道家が11日はお点前、12日は点出しでもてなす。無料で、松濤園の入園料がいる。

 蘭島閣美術館の特別展「日本画山脈 再生と革新―逆襲の最前線」は10月9日まで。平山郁夫たち7人の作品を中心に、日本画が戦後、再生した歩みをたどる。日本画壇の流れを約60点で紹介している。午前9時~午後5時。火曜日休館。

朝鮮通信使
 1607~1811年に計12回、国交正常化や徳川新将軍の就任祝いなどを目的に朝鮮王国が派遣。1回当たり約500人が漢城(現ソウル)と江戸を往復した。学者や画家たちも多く含まれた。瀬戸内海沿岸の寄港地などでは各藩が競ってもてなした。下蒲刈島には11回立ち寄った。

(2017年10月8日朝刊掲載)

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