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社説・コラム

『潮流』 スクリーニング 引用のわな

■論説副主幹 宮崎智三

 東京電力福島第1原発事故から6年余り、福島県による県民健康調査で子どもの甲状腺がんが当初の予想以上に見つかっている。放射線の影響かどうか、不安を拭い切れない人は多いのではないか。

 科学者の国会、日本科学者会議が先月、子どもの放射線影響について報告書を出した。放射線への感受性が大人より高いとされる子どもに絞って科学的知見やデータを整理、分析している。関心は高いだろう。

 がん多発は、網羅的な検査で無症状や無自覚な微小がんまで発見する「スクリーニング効果」だとの考えが示されている。一方で、それだけでは説明がつかないとの指摘もある。

 報告書は、多様な意見を引き、早急な断定は慎重に避けているようだ。確かに科学的な決着にはまだ時間がかかるだろうが、もう少し突っ込んで議論してほしいという思いは残った。

 チェルノブイリ事故の経験から潜伏期間は4~5年と考えられるため、「影響の有無に関して結論を得るには10年程度が必要だ」と長期的な追跡が欠かせないことも押さえている。

 それだけに資源エネルギー庁のウェブサイトを見て驚いた。注目すべきポイントの紹介として今月3日にまとめを載せている。甲状腺検査の結果について「スクリーニング効果だと考えられている」などと報告書から数行を引用している。

 文面に誤りはない。しかし事故後3年間のデータを軸にした結果であることは示されていない。放射線の影響が仮にあったとしても3年程度の検査で現れる可能性は極めて低い。潜伏期間を考えず影響の有無を断定するのがいかに困難か分かっていないのだろうか。

 エネ庁のまとめだけ読む人がいれば、4年目以降の検査で見つかった甲状腺がんも全てスクリーニング効果だと誤解されかねない。何とも罪深い。

(2017年10月7日朝刊掲載)

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