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社説・コラム

社説 ’17衆院選 原発事故と復興 福島に寄り添う政策を

 選挙戦第一声の地に、安倍晋三首相は福島市を選んだ。福島県からのスタートは衆院選で3回連続だ。福島第1原発事故の被災者に寄り添う姿勢をアピールしたかったのだろう。ならばもう半日、現地にとどまり、福島地裁の判決と被災者の声に耳を傾けてほしかった。

 おとといの判決は「津波対策を取っていれば事故は回避可能だった」とし、被告の国と東京電力に5億円の賠償を命じた。原告団は約3800人。全国約30の集団訴訟で最大で、今後の司法判断にも影響してこよう。

 津波の予見性は3月の前橋、9月の千葉の地裁判決でも認定されたが、国の責任に踏み込んだのは前橋に続き2件目だ。

 「規制権限の不行使は許容される限度を逸脱し、著しく合理性を欠く」と裁判長は断じた。まぎれもない「人災」で、防げた事故だったことを率直に認め深く反省すべきではないか。原発推進の旗を振ってきた自民党と歴代政権にも言えることだ。

 事故2年後の提訴から、20回を超す口頭弁論を重ねた。不作為を裏付ける証拠として原告団が法廷で示したのが、国の地震調査研究推進本部が2002年に公表した「長期評価」である。福島沖で大きな地震が起こる可能性を指摘していた。

 研究推進本部内でも異論があったとして長期評価に疑義を唱えた国や東電に対し、福島地裁は専門家の議論を経た公式な評価だとし「信頼性が損なわれるものではない」と結論付けた。判決にどう影響したか定かではないが、裁判長が公判期間中、防護服を着て帰還困難区域の原告宅を訪ね、仮設住宅も回ったことは大いに評価したい。

 福島県民の多くが今も放射線におびえ、風評被害にさらされている。避難生活者はなお約5万5千人を数える。被災者の声に触れ、政策に反映させることこそ政治の使命ではないか。

 原発の是非は、関心の高いテーマである。本来ならこの一点で国民の審判を仰いでもいい重要な問題だろう。原発にこだわる自民党に対し、連立与党の公明党や、希望、共産、立憲民主などの野党各党は原発ゼロを公約に掲げている。

 原発以外にも、改憲や消費税増税などで与野党の訴えは入り乱れており、有権者は判断が難しい。ただ、原子力政策を今後どうしていくかには、福島の教訓を生かすべきだろう。

 一つは、原発再稼働の同意権の問題だ。現在は立地県や地元自治体に限られているが、万一の場合は避難指示が出される半径30キロ圏の周辺自治体も同意権を求め始めた。島根原発や伊方原発の影響が及ぶ中国地方の私たちも真剣に考えたい。

 原発がもたらすとされる経済効果もしっかり見極める必要があろう。地元業者や住民に一体どれだけの恩恵があるのか。国や事業者が具体的な数字を示さねば「経済神話」で終わり、国民の幅広い理解は得られまい。

 きのう東日本大震災と福島事故から6年7カ月が過ぎた。被災地はいまだ復興の途上にあることを忘れてはならない。大震災を「あっちの方でよかった」とか、「最後は金目」と福島を見下すような閣僚の暴言は許されない。インフラ復旧や予算消化などの数字では捉え切れない、被災者に寄り添った復興が求められている。

(2017年10月12日朝刊掲載)

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